こはぜ屋のFP&A の続き、その2です

前回に引き継ぎ、現在放送中のドラマ『陸王』から、この舞台となる”こはぜ屋”のFP&Aを推測するコラム。

全てドラマからの情報を元にした仮説です(私は小説のほうは読んでいません)ので、原作者の想定と合っている確証はまったくありません(笑)。

しかしこの限られた情報を題材として、仮想FP&Aをビジネスシミュレーションゲームを楽しむ感覚で読んでいただければ幸いです。

先週は7億円の年商というヒントがありましたが、今週は試算表の一部が画面に登場しました。

それによると、月商約41百万円、粗利益約11百万円、営業利益4百万円弱でした。年商7億円とはちょっと計算が合いませんが、まぁ遠からずです。粗利益率役27%、営業利益率10%弱というのは悪い数字ではありません。F P&A的には支払い金利の数字が見えなかったのが残念ですが。

年商、つまり売上が7億円となると、はたして足袋にして何足分に相当するんでしょうか。

足袋は足袋でも、和装に使う靴下のようなモノもあれば地下足袋のようなモノもあり、価格も800円くらいから3千円くらいと様々です。こはぜ屋の主流がどの価格帯かによりますが、ここでは仮に平均販売価格を1,500円と推定します。店頭での価格が1,500円ということは、卸値は1,000円くらいでしょうか。そうするとこれを年商で割返すと… 70万足!

70万足ということは、月間平均5万8千足!♪ 作った足袋が5万足 🎶 (古い!) 、社員20人の足袋屋さんが1日平均で約3千足も出荷していることになります。それでも経営がぎりぎりなんですから、中小企業の経営は苦労が絶えません。

ところでこの70万足、職人ひとりあたりどのくらいの間隔で1足の足袋を仕上げているかが気になって計算してみました。

“きねや足袋”というドラマの協力会社にもなっている行田市に実在する足袋屋さんがYoutubeに生産工程の紹介映像を載せているのですが、それによると足袋の生産工程は全部で14あって、特に"つま縫い” というつま先の縫製や最後の仕上げの工程に職人技が要求されるそうです。

こはぜ屋の縫製課には、阿川佐和子や心臓病で入院した正司照枝などが扮する5人の職人がいます(他にも、例えば生地の裁断、こはぜの取付、仕上げ、梱包、出荷検査などの生産工程に加え、間接部門の購買、物流、顧客対応、設備メンテ、営業、事務などの役割があり、これらを残りの15人で賄っていることになります) が、仮に縫製工程の歩留まりが100%としても、全縫製工程に対してひとりあたり1日600足仕上げていることになります。1日8時間労働で計算すると…… 1足あたりなんと48秒!、私の各種推定値が50%ずれていたとしても1分ちょっとで仕上げている計算です。すごいですね。

えっ?FP&Aと関係ないんじゃない? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、オオアリです。FP&Aの基礎は"ビジネスを理解すること” から始まります。生産工程や効率を理解することは、製造業においては特に重要な項目となります。一見ムダな分析のようですが、これらが解らずしては製造業のF P&Aは成り立ちません。

もうひとつ、ドラマでも話題になっていますが、会社のリスクはどこにあるのかというポイントに注目してみましょう。

こはぜ屋の場合、シルクレイの製造機やアッパーの素材だけではなく、再調達の出来ないミシンのパーツや病気で入院した会社の重要なコンピテンスのひとつである『つま縫い職人』などにも大きな潜在リスクがあるのです。

このような潜在リスクが表面化した時に会社の経営は危うくなるのです。まさに今こはぜ屋が直面している危機です。しかし現実はドラマのように『最後の最後ギリギリになって救世主が現れる』なんてことはありませんから、常にリスクを意識した経営をすることは、特に単一のマーケットに依存している中小企業には重要となります。

そして、リスク管理には金が掛かります。アッパー素材の供給先が1社しか無ければ、いざという時の為に2社目を探しておかなければならず、コンピテンスを持っている社員が限られていれば、後継者の育成なりをしていかなければならず、機械のパーツが限られていれば、自社で型から起こし直さなければならないかもしれません。全て余分なお金がかかる話です。

もちろん、リスク管理だけではダメです。いくら実現可能な良い計画や素晴らしい技術があっても、足元のキャッシュが無ければ会社は潰れてしまいます。まずはファンドがあってこその事業運営です。

そしてそのキャッシュがうまくマワっていくためにFP&Aの視点から様々なリスクを分析し、なるべくコストを掛けずにこれらのリスクを回避していくかの提案をすることもFP&A担当者の役割のひとつでもあります。

でもリスク管理で保守的に動くのでは、ドラマの筋書き的にはまったく面白味はありませんが(笑)

ということで、原価計算の基礎はせっかくですので、上記の各種推定値を参考値として使ってみたいと思います。

ところで原価の分析の前に、『こはぜ屋』という会社の価値について。

今週は松岡修造が社長に扮する外資系のアウトドアメーカーフェリックス(どこかで聞いたような…)がシルクレイの製造技術を目当てに近づいてきました。

『3億円で買収したい』と。

熱い(暑い?)人から熱い説得をされて、役所広司は前向きな検討を始めます。

しかしこの3億円の買収価格って妥当なんでしょうか?(この話は後ほど)

池井戸氏の小説では、『外資系』の会社はとかく悪者にされる傾向があります。ま、その方が筋書き的にはやりやすいんでしょう。アトランティスも外資系ですよね。

で、今回松岡修造が『救世主』なのか『ヒール』なのか。私の推測では定番通り悪いやつで、ハナから会社を買収後に足袋の製造からは撤退し、『シルクレイの製造だけを残す計画』でいるのかと。

株主になってしまえばあとは事業のスコープは自由に変更できます。非情にも見えますがM&Aの計画では良くあることで、極端な場合は競合会社を"始めから潰す計画” で買収計画を立てるというのもあります。(実現はしませんでしたが、私も実際そういう計画に参画した事もあります)

買って潰した方が競合と延々と市場で戦っていくより効率的で金銭的にもリーズナブルだからです。買収後は特定の技術やパテントだけを親会社に移転し、残りは法人格ごと清算。目障りな競合を金を出して消したと思えばいいんです。

あー、またこんな事を書くとやっぱり外資系は非情だ!なんて思われちゃうかもしれませんが…

まぁよくある計画ですが、実際は独占禁止法に抵触する可能性が高く、このような場合は買収の実現が難しいのも事実です。

3億円の買収価格の前に、少しだけ話を引き戻して、ドラマの筋書きの話ですが、次週予告から推察して、今後の筋書きはこういうのはどうでしょう?

買収計画を会社に持ち帰った役所広司は社員から猛反発を受けるが彼の意向は変わらず、今度は家族だけでなく社員とも険悪状態に。

一方で、アトランティスもこはぜ屋の窮地をいいことに、シルクレイの技術獲得に意欲を見せはじめる。ピエール瀧は役所広司にフェリックスよりも金額的に良い条件の提示と、どこから聞いたのか松岡修造の良からぬ計画を耳打ちしてくる。『このままではこはぜ屋は終わる、しかしアトランティスと組めば陸王の生産継続は保証する』と。役所広司はまたしても悩む。

足元の試算表は赤字を出してる、どちらの買収提案も信用できない、古参社員はやる気を失くしてきている、シルクレイは作れない、アッパー素材は見つからない…いやいやストレスだらけです。もう充分でしょう。これ以上引っ張ると悲劇のドラマになってしまうので、ここからは挽回劇の開始です。

竹内涼真はミッドフット走法で走れるよう、ミズノの市販シューズをやめ、やむなく一度はアトランティスを履いて予選大会に出場する。しかし本番のマラソン大会では”勝つために” 再び陸王を履いて出場、毛塚とのデッドヒートを制し勝利。彼は一躍有名人物に。

その後、メディアのインタビューで彼が陸王を褒めたことから、こはぜ屋に陸王の問い合わせが殺到する。そしてゲンさんの努力もあり、埼玉中央銀行からの追加融資の意向を取り付ける。

アッパー素材についても山崎賢人が実はキム兄と裏で粘り強く交渉していて、それが実を結び継続供給されることに。

これで『陸王』と『こはぜ屋』両方の復活の道筋が見えてきました。

さあどうする、役所広司!さぁどうなる、こはぜ屋!

ということで、脱線したまま制限字数が尽きてしまったので、3億円のバリューの話は次のコラムで!

続く

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