東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応 の続き|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

今回の東芝の『血のバレンタイン』騒動は、アメリカの原発関連子会社に絡む減損処理が原因で、東芝の今期の決算が債務超過になってしまう可能性が高いというものです。債務超過になればいずれ上場廃止になるのは必至で、100年以上続いた名門の終焉は日本の経済力にも少なからず影響を与えるでしょう。

債務超過に至るまでには兆候があったはずで、それは ”受注損失引当金に始まる負の連鎖” から引き起こされたのではないかということを前回書きました。

では、最初の兆候である受注損失引当金はどのように発生したのか、そしてそれが決算にどれだけインパクトが与えたのかについて少し説明します。

製造”見積”原価の上昇は、受注損失引当金に影響を与えます。受注時の見積りでは、特別の理由がない限りある程度の粗利益を確保できると想定しているはずで、一般的な製造業であれば、25〜30%が適切なレベルと言われています。

今回の報道によると、311の原発事故の影響で “安全性確保” の為の処置を強いられ、それが原因でコストが上昇したとのことでしたが、一口に安全性の確保と言っても、これは製造原価の見積りに大変な影響を与えます。

どんな製品でも安全性の確保には多かれ少なかれコストを費やします。特に自動車、建設、機械、プラント開発などは、オペレーションを一歩間違えれば死亡事故に繋がる危険性があるため、設計時から専門チームが関わり、例えケアレスミスがあっても事故に繋がらないよう、何重にも対策を講じます。

一方、いくら安全性の確保と言っても青天井に対策を講じてしまえば、コストだけでは無く日常のオペレーションや効率にも影響があるため、どの程度安全性を確保するかは、業界の規格あるいは社内基準によりコントロールされます。

わかりやすい例で言えば、自動車のエンジンをかける時の安全性です。AT車の場合、ただキーを回すだけでエンジンが掛かってしまえば、その途端に車が走り出し事故を起こす危険性があります。しかし、シフトがPのポジションにあり且つブレーキを踏んでいれば、そのリスクも軽減できます。一方、それに加えて運転席に誰かが座っていなければならないとか、ドアーが全部閉まっていなければならないというのはやり過ぎである、という類いのものです。

当然、このようなプロセスにはコストが発生します。上記を例に取れば、ブレーキと変速機とイグニションを結ぶ専用の回路・ソフトウエアの設計や配線だけではなく、機械的な変更も必要になってくるかもしれません。

安全性の確保は通常は開発当初の設計段階から当然想定されているもので、後から容易に付け足しができるものでは無く、仮に無理に設計完了後になってから修正を加えれば、コストも時間も当初から行う場合と比べ、何十倍もかかることになるでしょう。

今回の更なる安全性の確保は、まさにその設計後に起こったのでしょう。詳しくはわかりませんが、隔壁の強度を上げるとか、何重にもするとか、部材を見直すとか、停電時のバックアップ冷却装置の確保やら地盤沈下対策などなど、まぁそう言った類いのものではないかと想像します。

機械モノは大概そうだと思いますが、ひとつ設計を変えれば連鎖的に設計変更が必要になります。例えば、ある部品の強度を上げるために部材の材質を変えたために重量が増え、増えたためにそれを支持する部材の強度も上げる必要が出てきて、支持する部材が変わったから動きが悪くなり、振動が発生するので、振動を防止する部材を入れたら嵩が上がってしまって… などなど、まさに ”風が吹けば〜” 状態になってしまいます。(この場合は儲からないんですが(笑))

このように、”更なる安全性確保” のための後追いの設計変更により、見積り原価が当初と比べて数十%上がってしまってもなんら不思議ではありません。電力会社にも、国にも交渉して損失補てんの要求もしたのでしょうが、風当たりの強い原発に救いの手が少なかったことは想像に難しくありません。

そう、25〜30%の粗利益なんていとも簡単に吹き飛んでしまうのです。IFRSの場合は、受注損失引当金の計算には粗利益だけではなく、SG&Aのコストも考慮しますから更に引当金額は上昇します。

これが、最初の兆候です。受注損失引当金が、ある特定の受注に対して起こってしまった場合は特に大きな問題となることも無いでしょうが、安全性の問題となれば主力製品全体に対して引当金が発生します。また、原発の標準的な工期が何年かはわかりませんが、仮に10年とすると、理論的には10年分のバックオーダーを抱えていることになり、その全てに対して受注損失引当金を適用することになります。つまり10年先までの損失見込みをたった一年の決算で全額を織り込まなければならないのです。

もう、決算はメタメタです。そして更に追い討ちをかけるのがその事業を継続する為に維持している固定資産の減損処理です。この事業を継続するために必要な固定資産は、果たして ”価値のあるものであるのだろうか” という疑問が湧いてきます。つまり資産が資産である為には、将来利益を生み出すものでなければならないのに、将来利益を生む計画が立てられなければ、いっそ資産の帳簿価額を下げてしまおう。というのが固定資産の減損処理の基本的な考えであり、これが第2の兆候となるのです。

これだけでも、下手をすれば会社存続の危機に瀕する ”オン・ザ・エッヂ” 状態なのに、更に追い討ちをかけるように、第3の兆候が来てしまったのです。

それは次のコラムで。

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