東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応 の続き の続きです|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

『血のバレンタイン』騒動の話の続きですが、これを書いているそばから、東芝の今期の決算が債務超過になることはほぼ確定的で、東証2部降格、あるいは上場廃止の確率が高くなってきたというニュースが流れてきました。まぁ想像通りのストーリーで、個人的には2部降格では済まされないと予測しています。

さて、債務超過に至るまでには兆候があったはずで、それは ”受注損失引当金に始まる負の連鎖” から、固定資産の減損処理を引き起こしたのではないかと説明しました。そして第3の処理、のれん(営業権)の償却へと続くのです。

既に受注損失引当金で10年先までの損失を処理し、おまけに有形固定資産の減損処理までやって、キレイサッパリぜい肉をそぎ落としきったつもりでしたが、残念ながらまだありました。(泣)

過去の有報を詳しく見れば正確な金額は分かるのでしょうが、東芝のバランスシートには、WH社取得の際に計上した ”のれん(営業権)” が計上されていたはずです。

のれんは、簡単に言えば買収会社の帳簿価額(正確には公正価値)と実際に買収時に支払った金額の差額で、無形固定資産に計上されます。まれに、買収金額の方が安い場合もあります(“負ののれん” と言います)が、買収価格には帳簿価額に加え、将来産み出されるであろう収益の見込み額の一部も含めるため、通常は資産として計上されます。ちなみに “のれん” は ”Goodwill” ですが、負ののれんは ”Badwill”と言って区別します(笑) 。Badwillが発生した場合は負債には計上せずに一時の収益として処理します。

世の中、企業買収(M&A)を繰り返して巨大化して行く企業は数多くありますが、東芝も例外では無く、2006年のWH社の買収時には6千数百万円もの大金をつぎ込んだとあります。今回、”WH社に絡む減損処理による損失” とありますので、その多くはこの買収時に計上した ”のれん” が締めているのではないかと思います。

その “のれん”の減損処理ですが、どこまで減損するかは、基本的には将来の事業計画に拠るところが大きくなります。

のれんは、J-GAAPでは20年以内で均等償却とありますが、IFRSではその価値が著しく損なわれた場合のみ、減損処理を行うことになっていますので、今回の受注損失引当金を計上するまではIFRS上では買収当時ののれん金額がマルマル残っていたことになります。

この無形固定資産、” 将来、収益を生み出せない資産” と判断されれば、最悪の場合は100%減損ということもあり得ます。だから管理会計の責任者が将来の事業計画をどう描くかは大変重要でもあり、ある意味会社の将来を左右する話なので重責でもあります。

減損処理をしたからと言ってもキャッシュが減るわけではありませんから、すぐに会社が倒産する事は無いでしょうが、上場廃止となれば資金調達は困難となり、それは会社が衰退の一途を辿ることになることを意味します。

FP&Aとしてこの課題にどう対峙するのか。超難題ですが、腕の見せ所でもあります。簡単に言えば、”将来一定の収益が見込める事業計画案” を作成し、その価値がのれんの価値を上回ることが理論上証明できれば減損を回避できます。監査法人がそれを認めるという条件付きですが。裏を返せば、認められなければ会社を窮地に追い込むことになります。

しかし、監査法人も昨今あちこちで発生した不正会計を見抜けなかった事件で相当叩かれているため、そうそう簡単に ”ハイそうですか” とは言ってくれません。事業計画には理論的な説明とそれを証明できる資料を揃えておかなければ、決して首を縦に振ることはありません。つまり ”絵に描いた餅” を見せるだけでは無く、餅が出来上がるまでの過程を理論立てて説明する必要があるのです。

例えば、昨年まで赤字だった原発関連事業が、いくら受注損失引当金を計上しているとは言え、急に黒字になる計画を、何の根拠も無く立てても『それは現実味が無い計画でしょう』と一蹴されてアウトです。

でもどうでしょう、例えば工期の短い原発の需要が今後見込めるとします。もちろんそれが過去数年間のマーケットのトレンドで証明できるとしましょう。そして、工期が短かくかつ安全対策の済んだプラント開発と設計がほぼ終わっていて、その原価計算とマーケット価格から一定の粗利益が確保できる見込みがある事が証明できれば、少なくとも数年先からの売上げが通常の粗利益率で達成できる見込みを立てられるかもしれません。そうすれば数年先までは現在抱えるバックオーダーでギリギリ凌いだとしても、数年先からは徐々に利益を見込めるシナリオが描ける可能性もあります。そうなれば或いはそれが事業計画として認められるかもしれません。

決して “飛び抜けて明るい将来像” を描いてはダメです。何とかギリギリ実現可能なライン且つ減損を回避できるラインを見極めて計画を立てなければ、後で実績との乖離に苦しむことになります。一度事業計画が承認されれば、あとは実績が計画通り、或いは計画より上回っている限り原則として減損は回避できます。

監査法人、つまり公認会計士は監査のプロですが、事業法人の会計のプロではありません。監査六法や監査手順には詳しくても事業計画作成に関しては素人同然ですから、会社側、つまりFP&Aに主導権があるのです。

誤魔化してまで計画を立てるのは、倫理にもとりますが、ある程度のリーズナブルな可能性を追求した事業計画を立てるぶんには監査法人も否定は出来ないはずです。ですからFP&Aの腕次第では危機を、つまり減損処理を回避できる可能性もあります。ただし、一時的にはという但し書き付きですが。

当然、事業計画は年度別、或いは四半期別に作成することを求めらます。例えば10年先までの計画を立てたとしましょう。監査法人は必ずその事業計画と実績がかけ離れていないかを翌期からトラッキングを開始します。そしてそれが計画通りに進んでいなければ、FP&Aは嘘つき扱い、会社は減損処理を強いられることになります。残念ながら。

しかし、減損を一年先延ばしに出来ただけでもチャンスが生まれる可能性はあります。その1年間にどれだけ復活の道筋を付けられるか。まさに、執行猶予付きの実刑の判決を受けたようなものですから。

東芝は、一昨年の不正会計問題で執行猶予を与えられたにも拘らず、事業再生の道筋を立てられなかったばかりか、さらなる不祥事を暴かれてしまいました。残念ながら復活への道筋は閉ざされ、実刑が言い渡されることでしょう。

– 後書き –
東芝が実際に監査法人とどのようなやり取りをしたかは分かりませんが、数年前に不正会計を行なったいわゆる ”前科者” には相当の厳しい態度で対応したことでしょう。ましてや、お決まりの ”E&Yが監査法人の時に不正会計が発覚、その後はPWCにバトンタッチ” というパターンです。PWCも相当構えて監査に臨んだことでしょう。だから発覚したのか、それともE&Yが見逃していたのか、自らが自白したのかは分かりませんが、会計処理をバカにした会社が会計処理に仕返しされてしまいました。残念です。

会計監査でも税務でもそうですが、彼らが帳簿全てをチェックすることなど到底出来ません。ですから当然、一通りのお決まりのチェックポイントを監査したあとは、その過程で ”ちょっと怪しいな” と思ったポイントに突っ込んできます。

彼らもプロですから、そのあたりにはハナが効きます。そしてその怪しいポイントについては徹底的に資料と説明を求められることになります。財務担当者として、ルーティンポイントで何も問題が起こらないようにすることは当然ですが、”怪しいポイントを見つけ出させ無い” ような対策を取っておくことも需要です。そのためには何をすれば良いか?

それはまた、別のコラムで。

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応 の続き|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

今回の東芝の『血のバレンタイン』騒動は、アメリカの原発関連子会社に絡む減損処理が原因で、東芝の今期の決算が債務超過になってしまう可能性が高いというものです。債務超過になればいずれ上場廃止になるのは必至で、100年以上続いた名門の終焉は日本の経済力にも少なからず影響を与えるでしょう。

債務超過に至るまでには兆候があったはずで、それは ”受注損失引当金に始まる負の連鎖” から引き起こされたのではないかということを前回書きました。

では、最初の兆候である受注損失引当金はどのように発生したのか、そしてそれが決算にどれだけインパクトが与えたのかについて少し説明します。

製造”見積”原価の上昇は、受注損失引当金に影響を与えます。受注時の見積りでは、特別の理由がない限りある程度の粗利益を確保できると想定しているはずで、一般的な製造業であれば、25〜30%が適切なレベルと言われています。

今回の報道によると、311の原発事故の影響で “安全性確保” の為の処置を強いられ、それが原因でコストが上昇したとのことでしたが、一口に安全性の確保と言っても、これは製造原価の見積りに大変な影響を与えます。

どんな製品でも安全性の確保には多かれ少なかれコストを費やします。特に自動車、建設、機械、プラント開発などは、オペレーションを一歩間違えれば死亡事故に繋がる危険性があるため、設計時から専門チームが関わり、例えケアレスミスがあっても事故に繋がらないよう、何重にも対策を講じます。

一方、いくら安全性の確保と言っても青天井に対策を講じてしまえば、コストだけでは無く日常のオペレーションや効率にも影響があるため、どの程度安全性を確保するかは、業界の規格あるいは社内基準によりコントロールされます。

わかりやすい例で言えば、自動車のエンジンをかける時の安全性です。AT車の場合、ただキーを回すだけでエンジンが掛かってしまえば、その途端に車が走り出し事故を起こす危険性があります。しかし、シフトがPのポジションにあり且つブレーキを踏んでいれば、そのリスクも軽減できます。一方、それに加えて運転席に誰かが座っていなければならないとか、ドアーが全部閉まっていなければならないというのはやり過ぎである、という類いのものです。

当然、このようなプロセスにはコストが発生します。上記を例に取れば、ブレーキと変速機とイグニションを結ぶ専用の回路・ソフトウエアの設計や配線だけではなく、機械的な変更も必要になってくるかもしれません。

安全性の確保は通常は開発当初の設計段階から当然想定されているもので、後から容易に付け足しができるものでは無く、仮に無理に設計完了後になってから修正を加えれば、コストも時間も当初から行う場合と比べ、何十倍もかかることになるでしょう。

今回の更なる安全性の確保は、まさにその設計後に起こったのでしょう。詳しくはわかりませんが、隔壁の強度を上げるとか、何重にもするとか、部材を見直すとか、停電時のバックアップ冷却装置の確保やら地盤沈下対策などなど、まぁそう言った類いのものではないかと想像します。

機械モノは大概そうだと思いますが、ひとつ設計を変えれば連鎖的に設計変更が必要になります。例えば、ある部品の強度を上げるために部材の材質を変えたために重量が増え、増えたためにそれを支持する部材の強度も上げる必要が出てきて、支持する部材が変わったから動きが悪くなり、振動が発生するので、振動を防止する部材を入れたら嵩が上がってしまって… などなど、まさに ”風が吹けば〜” 状態になってしまいます。(この場合は儲からないんですが(笑))

このように、”更なる安全性確保” のための後追いの設計変更により、見積り原価が当初と比べて数十%上がってしまってもなんら不思議ではありません。電力会社にも、国にも交渉して損失補てんの要求もしたのでしょうが、風当たりの強い原発に救いの手が少なかったことは想像に難しくありません。

そう、25〜30%の粗利益なんていとも簡単に吹き飛んでしまうのです。IFRSの場合は、受注損失引当金の計算には粗利益だけではなく、SG&Aのコストも考慮しますから更に引当金額は上昇します。

これが、最初の兆候です。受注損失引当金が、ある特定の受注に対して起こってしまった場合は特に大きな問題となることも無いでしょうが、安全性の問題となれば主力製品全体に対して引当金が発生します。また、原発の標準的な工期が何年かはわかりませんが、仮に10年とすると、理論的には10年分のバックオーダーを抱えていることになり、その全てに対して受注損失引当金を適用することになります。つまり10年先までの損失見込みをたった一年の決算で全額を織り込まなければならないのです。

もう、決算はメタメタです。そして更に追い討ちをかけるのがその事業を継続する為に維持している固定資産の減損処理です。この事業を継続するために必要な固定資産は、果たして ”価値のあるものであるのだろうか” という疑問が湧いてきます。つまり資産が資産である為には、将来利益を生み出すものでなければならないのに、将来利益を生む計画が立てられなければ、いっそ資産の帳簿価額を下げてしまおう。というのが固定資産の減損処理の基本的な考えであり、これが第2の兆候となるのです。

これだけでも、下手をすれば会社存続の危機に瀕する ”オン・ザ・エッヂ” 状態なのに、更に追い討ちをかけるように、第3の兆候が来てしまったのです。

それは次のコラムで。

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応

〔家計簿の複式簿記化の話の続きの前に、ちょっと寄り道してホットな話題を〕

『血のバレンタイン』

2017年2月14日、東芝はアメリカの原発関連子会社に対し7,000万円を超える減損処理を行うことを発表しました。これは今期の決算が約5,000万円の赤字、さらに約2,000万円債務超過となり、当然、このままでは上場廃止の道を辿ることになる事を意味します。(しかし、半導体部門をスピンオフしてそれを回避する予定とのこと)

何年かおきにやって来る大手企業の粉飾決算のスキャンダル。ついに113年の歴史を持ち19万人の連結従業員を抱える東芝が、減損処理という決定打により、名門の歴史を閉じようとしています。

「会計処理を誤ったからといって、電気機器具の製造等という原告(東芝)の主たる事業自体への信用も毀損されているとはいえない」

これは、2015年に同社が歴代3社長と2人のCFOを不正な会計処理を行った罪で訴えた裁判での、かつての社長である西田氏の発言です。

” 会計処理如きで我々が永年培ってきた事業そのものが揺るぐことは無い”

と、胸を張って言いたかったのでしょう。誰かが拍手でもしてくれるとでも思ったのでしょうか。

私には、”アホを通り越して悲しい開き直りの発言” にしか見えません。会計帳簿の重要性に対する認識が上場企業の社長として決定的に欠落しています。こんなやつが19万人の会社のトップだったと思うと、整理ポジションの会社になった会社で働き続ける従業員もうかばれないでしょう。(整理ポジションになるかどうかはわかりませんが)

今回の債務超過は、そもそも東芝が損失処理を先延ばしたが為に生み出したと言っても過言ではありません。これは単に “損失の後出しか先出しか” の問題ではありません。”キズが浅いうちに治療すればいろいろな治療の選択肢があったのに、末期がんと宣告され、終末期医療の道しか残されなかった” ということと同じです。

このFP&Aのコラムでも何度か触れましたが、悪い兆候を見つけたら、FP&Aとして早期にリスクヘッジと回避あるいはオフセットできる財務的な対策を考える事が重要です。膿みを隠し続ければのちに腫れて、大手術が必要になるのは子供の頃から親に耳にタコが出来るほど聞かされてきたことでしょう(笑)

このタコ…いや社長、そればかりかパソコン事業では、”バイセル取引” という、古典的な粉飾決算の手法まで使い、決算を良く見せていました。膿みを隠すだけでは無く、派手な化粧までして自分を良く見せようとしていたんです。 幼稚極まりない。

会計帳簿は、究極を言えば、企業の財務状況をありのままに見せる事を目的にしています。特に上場会社は、ディスクロージャーとも呼ばれることからもわかるように、全てを包み隠さず開示しなければ、そもそも株主の信頼など得られる訳がありません。

裁判でCFOはきっとこう言ったんでしょう。『19万人の従業員を守る為に必要だった』『会計処理は監査法人との解釈の違い』とでも。守りたいなら正直に膿みを出せば良かったし『解釈の違い』などというものを正当な理由として言い訳しているようでは、そもそもCFO失格です。” あなたそれを承認してるでしょ?”

事業に対する志の低い彼ら役員にしてみれば如何に自分の任期中に業績を上げるかということに集中するが常で、それが成功すれば多額の退職金が待ち受けているという、まぁ、官僚の天下り問題と争うほど醜い仕組みになっているからそれも仕方が無いのかもしれません。

さて、前置きが長くなりましたが、FP&Aと今回の事件の関わりです。冒頭で触れた減損処理とその決定に至るまでの監査法人とのやり取りには、通常、財務部門だけでなく管理会計部門もインボルブされます。減損処理では会社の将来の収益性を見極めることが要求されるため、FP&Aの作成するプランがその判断の基準として採用されるからです。

ではそもそも減損処理(減損会計)とはどのようなものなのでしょうか? wikiによると、こう定義されています。

減損会計(げんそんかいけい、impairment accounting)とは、資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額にその価値の下落を反映させる手続きをいう。減損処理ともいう。

とかく企業の決算発表におけるビッグサプライズとして、毎度毎度、定番の原因として使われるこの言葉、なぜ四半期決算ではその兆候がなかったのに、期末決算で突然桁違いの損失が出てしまうのでしょう? それはその決定までの過程に深く関わりがあります。

今回の東芝のニュースをちょっと聞きかじっただけでは正確なことは分かりませんが、おそらくWH社の固定資産とのれんの両方に対して減損処理がされたのでは無いかと想像します。そもそも減損に至ったのは、” 311の原発事故の影響で原発の安全性を高める処置が必要になったから” とあります。

プロジェクトビジネスにおいて、主力製品において、何らかの原因で受注後に見積り製造原価よりも高いコストになることが想定される場合(今回の場合は安全性の確保)、且つそれを価格改定でカバーできない場合(同、電力会社との値上げ交渉が失敗)、多くは “負の連鎖” が始まることに繋がります。この負の連鎖は以下のようにして起こり得ます。

受注損失引当金 → 固定資産の減損処理 → のれんの減損処理 → 債務超過 → ✖️(想像にお任せします)

では、今回の東芝の減損がどのような過程で起きてしまったか(想像ですが)、何故、減損処理は突然やってくるのか。

それは次のコラムで。

家庭のFP&A 〜 家計簿にも複式簿記を その1 〜

今回は少しFP&Aとは離れて柔らかい話『家計簿にも複式簿記を』について、(全くもって)勝手な持論を書き綴りたいと思います。

最近ではフィンテックやスマホアプリの進歩もあり、レシートをスキャンするだけで、あるいはクレジットカードの請求書を自動的に読みとることで家計簿が簡単に作れたり、そればかりでなく、それを元に支出項目別に傾向を分析し、グラフ化したり、連携している銀行の預金を元に将来のプランなんかも提案してくれるなどと、FP&A顔負けの機能を持つアプリなんかも登場し、そのうち会社のFP&A業務もAI化され ”将来消えてしまう仕事” にリストアップされてしまうのではないかと心配になる今日この頃です。(まぁ、このコラムでも書いている通り自動化とはほど遠い力仕事なので、しばらくは無いとは思いますが 笑)

そんな家計簿ですが、原始的なものでもフィンテックを活用した最新のものでも共通しているのは、現金をベースとした『単式簿記』であるという点です。

単式簿記には貸借対照表も損益計算書もありません。あるのは現金を中心にした出納帳のみで、結果として現金がいくら残ったかを記録するというものです。

家計簿はその単式簿記を採用した現金主義方式により、その増減要因をカテゴリー分けし、あるいは過去の推移と比較し、多かったか少なかったかの分析を行い、あるいはそれを次月以降の支出の参考にすることに使われているツールです。一般的には。

例えば電気代を毎月比較して『夏場に多かったのは、きっとエアコンをたくさん使ったせいだわ』とか、『12月に食材費が多かったのはおせち料理の用意のせいだわ』とか『ガソリン代が高かったのは最近の原油の値上がりのせいだわ』などと予算オーバーした理由を考えて ”自分自身を納得させる” とか、夏休みの家族旅行が響いて支出が多かった翌月は、被服費や外食費を抑えるようにコントロールし、これでなんとなく”帳尻があったような気分にさせて貰える” というのも、もっと言えば、 『今月はボーナスが入ったから、贅沢にホテルのレストランで外食でもしましょうかしら』と ”プチハッピーな気分にさせてくれる” のも、家計簿の大事な役割でもあります。

それはそれで、ある程度の効果はあるんでしょう。しかし、いくらフィンテックが進化したからとはいえ、家計簿をつけるのも分析するのも、それなりの時間をかけているし、やっぱり面倒なものです。そうとう暇な方や家計簿を趣味でつけている人を除いては。だからその費用対効果に疑問を感じてしまうのです。つまり、せっかく時間を掛けてつけているんだから、もっと効率的で役に立つ分析をしましょうという提案をしたいんです。

それが、”家計簿の複式簿記化” です。

複式簿記を採用すると、何が見えてくるか、それは ”期間損益” です。家計簿の場合は、月ごとと年ごとの期間損益の把握が可能になります。給料が毎月入ってくるので毎月、それと毎月だけでは季節変動要因が考慮しにくいので、年ごとの分析も加えて行うというのがリーズナブルでしょう。また、現在の資産や負債の状況も見えます。さらに、もう一つ可能にしてくれるのが、単式簿記の帳簿ベースではなかなか難しい ”将来計画” の作成です。

『そりゃ、あんたは経理が専門だから複式簿記とか言ってるけど、簿記を知らない人にとっては、そんなのわからないよ』

と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、心配には及ばず、そんなに難しいことではありません。少し現金から離れて、”損得についての思考”に切り替えればいいんです。いや、現金主義を疎かにしろということではありませんよ。現金残高はもちろんしっかりと把握します。

当然実現にはアプリの力を借りることになるんでしょうが、昨今のフィンテックの技術に比べれば単純なものです。(具体的な仕組みは後述します)

さて、では期間損益が見えると何がいいんでしょうか?

『現金主義なら収支がハッキリとわかるし、それで毎月の損益も見えるでしょ。何より現金がベースだから安心だよ』

果たしてそうでしょうか? 毎月の突飛な支出や収入に一喜一憂したことはありませんか?

例えば、車が古くなって買い替えなければならなくなったり、住宅の固定資産税の請求時期を忘れていたり、逆に忘れていた保険の満期払戻金があったり。

このようなことがあると、当然現金が増減します。現金主義ですから現金が減れば翌月以降の支出を制限するでしょうし、現金が潤えばそれを活用しようと考えると思います。でもこの考え方は、複式簿記的には違和感があるんです。

『あ〜先月は車を買い替えたから大赤字だわ〜、しばらくパパのお小遣い減らしてもらおうかしら』お昼のワイドショーか、テレビショッピングの寸劇でよく見かけるシーンです。パパは当然アンハッピーです。しかし、複式簿記を採用していればこんなことにはなりません。

ではこの寸劇家族を例に、少し年月を遡って最初に車を買った結婚当初の6年前にタイムスリップして、6年間の家計簿の毎年の結果をその感想と共に単式簿記と複式簿記それぞれで比べて見てみたいと思います。

それは、次のコラムで。

fp&aと管理会計と財務会計 〜 管理会計の魔法 その2 〜|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

その1 では標準原価を例に管理会計の要求で財務会計の方針を変更する場合があることを話しましたが、その続きです。

さて、月次決算をするようになると、いかにして期間コスト、つまり ”毎月のコスト” を正確に把握出来るかというところに焦点が当たってきます。これが出来ないと標準原価と実際原価の間に常に大きな差異が発生してしまうばかりでなく、フォーキャストやビジネスプランニングの作成にも影響が出てしまうからです。

例えば、一年に1、2回しか発生しない経費。年次決算では支払いベースかせいぜい期末に引当金を計上すれば事足りますが、月次決算においてはそれでは不十分です。

製造経費では機器の定期点検や校正費用、製造のコンサルティング費用、パテント使用料やソフトウエアのライセンス料など、労務費ではインセンティブボーナスや労働保険料など、販管費では会計監査法人や税理士事務所への報酬や損害保険料などの、”毎月” 発生しないけれど ”毎年” 必ず発生する大きな経費は、請求書ベースでは無く、毎月引当金(或いは前払金)を計上し、”コストを平準化” する仕組みを作る必要があります。

そう、期間コストの平準化の為には平準化になるような会計仕訳を入れなければならないのです。毎月費用が均等になるように引当金を計上したら、実際のコストが確定した時点で差額を調整する。という管理会計目的の伝票が必要になるのです。

それでも、いくら頑張っても、原価差異は必ず発生します。あなたが預言者ではない限り(笑)。

でも短期決算ならまだその差異の修正は可能です。FP&Aとしては、まずは標準原価と実際原価になるべく差が起きないようコントロールする事が第一ですが、それでも発生してしまったものは舵取りを変え、期末までに修正できるように調整しましょう。

舵取りを変えるには今どれだけ ”本来の航路” からずれているかを把握しなければなりません。標準原価と実際原価がどれだけ乖離しているかは、比較的容易に把握する事が出来ます。毎月の原価差異総額が 試算表上に出てくるからです。(勘定科目を製造経費と販管費に分けている場合。そうでない場合はコストセンターレポートや損益計算書に通常は現れます)

その仕組みはこういうことです。製造を行なうと仕掛品が発生します。発生の都度、標準原価として設定した単価を使い【製造原価という箱】から仕掛品という在庫にコストが振替わります。一方でこの箱には実際に発生した製造コストがどんどん入ってきます。入って来たものと出て行ったものを足し引きして残ったものが原価差異になるという仕組みです。そしてその残ったものがプラスかマイナスかで “有利差異” か ”不利差異” かの判断も出来ます。ただし、あくまで総額だけです。どの製品で、どのような要素で差異が出たのかは、じっくり分析しなければわかりません。

特に外資の場合はまずは結果をレポートすることが優先されますので、分析は数値のレポートの後に、特に差異が大きい場合は迅速に行いましょう。また、差異が小さくても特定の製品だけで大きな有利差異が出て、他の多数の不利差異でカバーされている場合もあります(逆も然り)から、油断は禁物です。

差異分析の結果、その原因が引当金の見積り差異であれば、期末までに修正できるように金額を見直してみることも必要でしょうし、それ以外の原因であれば、在庫の金額を予め調整しておくのも手です。(在庫の調整については、次以降のコラムで説明します)

このような予実管理を繰り返すことでフォーキャスト(決算の着地予想)の精度アップも期待できます。FP&Aに求められる大きなタスクのひとつである ”正確なフォーキャストの作成” は、製造業の場合、多くを標準原価の精度に依存していると言っても過言ではありません。

ここで、ソフトウエア開発、建設、機械などの個別原価計算を要するプロジェクト型の原価計算を例に改めて標準原価設定の精度の重要性について触れてみます。

プロジェクト型の原価要素で多くを占めるのは人件費です。この人件費を原価に組み入れるには『賃率』の設定が必要となります。賃率はいわば標準原価のひとつで、ある一定期間の一工数あたりの単価を想定したものです。簡単に言えば時給のようなものですが、時給と言っても働く本人の人件費だけでなく、通常はその部門で発生するコスト全て、例えば事務所の賃料、減価償却費、IT関連コストや管理監督者の間接コストなどをも含む総額を実稼働時間で割返して導きます。

賃率を設定すれば、毎月の原価差異の要素として必ず ”賃率差異” が発生します。しかし差異が出たとしても、よほど大きくない限り期中で賃率を修正することはありません。というのも上述のプロジェクト型のビジネスの場合、受注してから納品するまで短くて数ヶ月、長ければ数年以上かかってしまう場合もあり、途中で賃率を変えてしまうと、ひとつのプロジェクトの中に ”受注時の想定賃率”、”標準賃率” と ”実際の賃率” の3つ(あるいはそれ以上)が存在することになってしまいます。こうなるとターゲットも定まらず、また、分析も困難になってしまい、そもそも何の為に標準原価を設定したのかが分からなくなってしまうからです。

一方で、実際原価からあまりにかけ離れた標準原価を採用し続ければ、比較そのものが無意味になるばかりでなく、毎月のように原価差異と在庫の修正仕訳を切らなければならないという事態にもなりかねません。(この話もまた長くなりそうなので、別の機会にします(笑))

もう一つ、標準原価の想定結果は製品のプライシングにも結びつくため、ビジネスを大きく左右する要素のひとつともなり得ます。

もし標準原価を実際原価よりも高目に設定すれば、当然価格設定も高くなり、結果としてマーケット価格を上回り受注に繋がらない可能性があります。だからと言って低く見積もれば当然価格設定も低くなり、結果として赤字のプロジェクトになる可能性もあります。

例えば、100円で設定した標準原価を元に130円のプライシングをし、受注出来たはいいものの、プロジェクトを進めたら実際原価は150円でした。などということになったら目も当てられません。

また、製品別の差異分析を疎かにすれば、”隠れた赤字製品” を生み出す原因にもなります。特に装置産業で起き得る問題ですが、個別の製品群を見ると粗利益率はそれぞれそれ程悪くないのに、何故か全体では常に原価差異が発生し、利益が上がらない場合があります。これは標準原価の設定を間違えたばかりに、実は薄利の製品を厚利と勘違いしてセールスプロモーションし、一方で実は高利益率の製品をディスコンしてしまうというケースです。実はこれが一番恐いパターンで、原因追求に比較的時間を要し、気が付いた時はtoo lateということもあります。

この様な事態を避けるためにも差異分析は、”どの原価要素で発生しているか” だけでなく、”どの製品で発生しているか” も調べることが重要なのです。

このように、一度設定したらそうそう変えられない標準原価ですが、設定を間違えれば会社存続の危機に瀕することにもなりかねません。ですから、賃率を含む標準原価の設定はFP&Aの重要なタスクのひとつです。どう設定すればよりビジネスを成功に導くか、十分検討しましょう。ここにもFP&Aのバリューがあるのです。

また長くなりそうなので、続きは次のコラムでつぶやくとします。

fp&aと管理会計と財務会計 〜 百万円は重要? 〜

人から職業を聞かれてどう答えてよいかに迷うことしばしば。ついつい『経理です』とか 『事務職』ですと言って適当に流してしまいます。というのも、例えば 『FP&Aやってます』『企業の管理会計担当です』『コントローラーです』などと言ってもほぼ間違いなく相手の頭の上に ??? を乗せる事になり、かといって、『外資系の会社で管理職をしてます』などと言って、《こいつきっと、悪どいことしてるな》と勘ぐられても嫌だからです(笑)

何を言いたいかと言うと、管理会計の意義が世間一般であまり認められていないが為に職業の認知度も低いのでは無いかと勝手に想像してしまうのです。

このコラムを通し、管理会計やFP&Aの重要性を(僭越ながら)説いていくことで、少しでもFP&A或いはコントローラーという職種の認知度を高める事が出来ればと、これも勝手に考えています。

さて冒頭の話に戻ると、例えば 『営業職です』とか『ソフトウェアのエンジニアです』などと言うことが出来れば『どんなものを営業しているんですか?』とか『どんなソフトの開発ですか?』と話もどんどん進んで楽しいでしょうが、『経理です』と言っても、たいがいは『あぁそうですか』とか、良くても『じゃぁ計算が早いんでしょうね』とか『数字に細かいんでしょうね』などと返ってくるのが関の山で、これまた苦笑いです。

まぁ、財務会計をやっているぶんには、計算の速さや数字の細かさは重要ですが、管理会計の世界では細かさはあまり重要ではなく、どちらかと言えば ”森” を見る感覚で仕事を捉えるべきと考えています。

つまり、数字一つ一つの正確性よりも、日ごろの仕事の流れやレポーティング・プレゼンの内容などを終始総合的に捉えて、前後を見ながら進めていくことが数値の正確性よりも重要になってきます。

財務会計では財務諸表に一円単位のレポーティングが当然のように求められます。キャッシュを扱っている以上は当たり前と言えばそれまでですが、一つには暗に帳簿の正確性を証明する意味合いもあるのかと思います。キャッシュが数万円合わないと大変ですからね。一方、多くの日本企業での管理会計における金額の管理単位は百万円です。

では何故管理会計は百万円単位でも良いのでしょうか?

それは、財務会計が主として外部に対する会社の財産や業績の説明に使われるのに対し、管理会計は主として会社内部の “ディシジョンメイク” に使われるからです。ディシジョンメイクに一円単位の数字は多くの場合必要ありません。

例えばワーキングキャピタルのレポート。そもそもワーキングキャピタル(主に在庫や売掛金・買掛金)の管理は主としてキャッシュフローの改善目的で行われます。在庫や売掛金が多いと余計な資金が必要となり、それに伴う金利負担も増加するだけでなく、自己資本比率の減少にも繋がってしまいます。

外資系企業は、通常その資本の多くを親会社の出資金で賄っているため、ワーキングキャピタルの悪化による金利負担が直接的にEBITに現れる事がありません。だから企業によっては、管理会計での損益の指標として通常使われるEBIT(利息税引前当期利益)やEBITDA(利息、償却費、税引前当期利益)ではなく、独自にワーキングキャピタルに対する利息(或いは目標配当率)相当分を加減算した独自の損益指標を設けている企業もあるくらいです。

つまり、ワーキングキャピタルの負担が高い場合は損益も悪くなるような仕組みを作ってしまうのです。何ともいやらしい仕組みですが、金利負担軽減や自己資本比率改善は連結企業にとっては大きな課題ですので、連結子会社の努力目標を明確にするためには、それも良い方法かと思います。

閑話休題、ワーキングキャピタルのレポートやプレゼンにおいて、例えば在庫金額を一円単位で表しても、全くディシジョンメイクの参考にはなりません。一円単位の正確性にこだわるよりも、百万円単位で過年度との比較、月別の推移の数値データや、過去に大きな変動があった場合はその要因、今後の推移予測、改善目標の数字と期日、その為の施策などを限られたスペースでレポートした方が、マネジメントにとっては有益です。

詳しくは後々のコラムで述べるとして、プレゼンテーションにおけるポイントの一つは、言いたい事を完結明快に表現する事であって、決してFP&A担当者が如何に頑張って分析をしたかを見せる場ではありません。マネジメントからすれば、パワーポイントの資料を何十枚も見せられたり、1ページに細かい数字の羅列をに大量に詰め込まれたスライドがプロジェクターを通して、目に入ってきたらそれだけでウンザリで、本題に集中出来なくなるくらいならまだしも、最悪はつまらない数字のアラ探しに話が発展してしまう可能性もあります。そうなったらあなたのFP&Aの生命はそこで終わりです(冗談)

そう、むしろ金額そのものではなく、原因や今後どのような対策を取れば良いかという点にフォーカスした方が良いのです。だから百万円以下の数字が見えなくたって、あまり問題ではないんです。

このように、(誤解を恐れずに言えば) 管理会計では、”数値は大雑把” でいいんです。

だから(職業柄)『数字に細かいんでしょうね』と言われてもあまりピンと来ないんです。O型ですし(笑)

つづく