​ 1人当たり売上高と床屋さんのFP&A

企業の収益性を図る指標のひとつに『1人当たり売上高』と言うものがあります。読んで字のごとく『売上高』を『社員数』で割った金額で、一般的はそれが大きければ大きいほど良いとされています。

1人当たり売上高の大きい業種の代表として商社、卸売業、ゼネコンや不動産業などが挙げられます。これらの業種に共通しているのは、限られた人数で比較的取引金額が大きい商品を付加価値(VA)を加えずに “右から左に動かす” 事で、比較的小さな売上総利益率ながら大きな営業利益を出すというのがビジネスモデルであり、製造業やサービス業のそれとは対照的です。

上記の業種を『人への依存度』と『VA』から考えると、サービス業 > 製造業 > 商社等 となり、つまり1人当たりの売上高とは反比例します。

このように業種によってその指標が変わりますが、1人当たり売上高は製造業で1億円以上あれば優良会社と考えて良いと思います。

製造品のVAがどのくらいの割合かにもよりますが、とはいえ例えば100人の製造会社で年間100億円のものを作り出すのいうのは、かなりハードルが高い指標です。

ちなみに、日本を代表する製造業のひとつであるトヨタ自動車を例に取ると、ザックリした計算で且つ年度によっても違いますが、1人当たり売上高は約8千万円、営業利益率は約8%、販管費率約12%、粗利益率約20%、原材料比率は80%ですのでVAは年間約3千万円、ひとり1時間当たりで約1万5千円という計算になります。

商社の場合はどうでしょう。同じトヨタグループの豊田通商は1人当たり売上高は約1億3千万円とトヨタ自動車よりも高いのですが、売上総利益は7%、販管費率は6%、1人当たりのVAは5,000円/時とトヨタ自動車よりも低くなってしまいます。このように1人当たり売上高の指標は業種によって異なりますので、一概に金額だけで比較する事は難しいです。

どうですか?皆さん、会社でひとりあたり1時間で1万5千円の価値を生み出していると思いますか? …と言われてもわかりませんよね。ではサービス業を例に取って考えてみましょう。

サービス業といっても、飲食業、観光業、機械や自動車の整備業や会計士、保育士、弁護士、税理士などの “士” が付く職業など様々ですが、今回は私が個人的にその価格設定について常に疑問を持っている理髪業を例に取って考えてみたいと思います。

理髪業、つまり床屋さんです。私の場合顔なじみの床屋さんにだいたいひと月半に1回程度行くのですが、そこで取り留めのない話をしながら散髪をしてもらうのが至福の時間で、気持ちよくて眠ってしまう事もしばしばです(笑)。

この床屋さん、何年も通っているのですが従業員は減る一方で、以前は全部で4人ほどで回していたのですが今は店長1人だけでやっています。なんでも、そもそも理容師の『なり手』がないそうで、辞めていくのは腕を上げて独立する人なのですが、代わりの新人が来ないとのこと。以前は理容師学校を卒業した新人が入って来たようですが今は募集しても全く来ないそうです。

どこもそうですが昨今の人手不足には困ったもので、特にサービス業においては顕著なものがあるようです。そしてその要因のひとつにやはり待遇面の悪さがあるのではないかと考えます。

私の場合まず髪を切ってもらってからシャンプー、顔剃り、ドライヤーで乾かし最後に簡易マッサージとなるのですが、(たいした髪ではありませんが)これで約1時間かかります。料金は4500円。不思議と地方でも都心でも散髪代は大きく変わらず、だいたい4千円から5千円の間です。この価格はおそらくここ20年間大きく変わっていません。

当然この一貫の作業中は私だけで他に客はいません。これ、どういう事かと言うと、この店長はどんなに頑張っても1時間当たり4,500円以上は稼げないんですね。当たり前ですが。

シャンプーなどの物品販売もありますがあまり買う人もいないでしょう。散髪はネット販売もできませんし、作り置きもできません。

ここは美容院と違うところで、ある程度の物品販売もあればパーマの待ち時間には他の人のカットも並行してできます。そもそも美容院の単価は何故か床屋よりも高いのでちょっと比較ができません。

それでも美容師の世界は理容師に比べれば『なり手』は多いそうです。ただし腕が良くないといつまで経っても下っ端で、結局は低価格店、つまり『1,000円カット店』のようなところへ転職して行くようです。ですので『1,000円カット店』の店員の多くは理容師では無く美容師なのだそうです。顔剃りをしないので資格的にも問題ないとのこと。私は行きませんが(笑)だって、普通の床屋さんが30分以上かけてカットするクオリティを10分で出来るハズがなく、結果として床屋に行く感覚が短くなり結局高くついてしまうのと、髪くらいはリラックスして切ってもらいたいし、顔剃りもお願いしたいからです。

さて店長の話に戻ります。この言わば時給4,500円の収入から店の家賃、専用の電動椅子のリース代、水道光熱費、シャンプー、石鹸、タオル、髭剃りなどの消耗品、タオル蒸し器やドライヤー、アイロンパーマのコテ、掃除機などの備品代も払わなければなりません。手取りはいったいいくらくらいになるでしょうか。

まずは収入の想定からです。パーマや毛染めがあったとしても、1時間当たりの単価はさほど変わらないと思いますので、そこの想定は割愛します。1時間の対価は4,500円、捌く人数は1人。では月に何人くらい客が来るでしょうか? この店長、腕が良いだけでなくアイロンパーマの特殊技術があるらしく、いつも先3週間は平日も含めて予約がいっぱいで、遠くは山梨や東京の外れから毎回通っている人や、我々世代の野球界のヒーローで今は野球解説者のE氏も遠くから通っているほどです。

ちなみに、いまどきアイロンパーマなんてやる人いるの?と聞いたところ、超剛毛の人は髪を伸ばすとどうにもバラバラになってしまい、アイロンパーマでないと収まりがつかないことがあるのでまだまだ需要あるとのこと。ただできる理容師も少なく増して熟練者は都内にもそう多くいないそうです。

このように幸いにもアイドリングの時間はほぼ無いようですので、仮に1日の営業時間10時間で日に8人、火曜日だけが定休日なので月の稼働は25日、そうすると月に約200人捌くことになります。そうとう頑張ってですが。

支出で1番大きいのは家賃でしょう。駅近の一階の店舗ですから月の家賃は最低でも20万円くらいはするでしょう。この家賃を200人で割り返すと千円。早くも手取りが時間3,500円まで減りました。同様にリース代を月に3万円、水道光熱費を5万円、消耗品や店の備品代で7万円、計15万円を割り返すと750円となり、2,750円まで減ってしまいました。

月の収入としては最大でも約50万円、年収で600〜650万円。ベテランで腕の良い職人の理容師ですから実質この業界のトップランナーでしょう。しかも1日立ちっぱなしで、週休1日です。ちなみにネットの情報ですが、理容師の平均年収は250〜350万円だそうです。

この店長も元々はカリスマ美容師がやるように、若い人材を育てて店を大きくし、オーナーになって店舗を増やす事を考えていたそうですが、人が来ないのでそれどころではないそうです。

さて、平均年収300万円、どんなに特殊技術を磨いても年収600〜700万円が頭打ち、しかも休みは少なく身体が資本、美容師のようにカリスマになる事も難しい…となるとやはり『なり手』は少なくなってしまうなが必然。床屋さんの数が減っているのは客が1,000円カットに流れているのが主な要因では無く、若手が魅力を感じられる報酬を得られる環境が出来ていないのが元凶のような気がします。昨今の保育士不足に近いものがあるかもしれません。現に歳を取った床屋のオーナーが跡取りもなく廃業するとケースも少なくないそうです。

理容師に限らずサービス業で変わらない需要があり、他に変えられない技術や知識を持っている人はやはりそれなりの報酬を得るべきで、そうでないとその産業自体が衰退していってしまいます。

日本でもドイツのマイスター制度のような仕組みを取り入れ、技術者は技術者として若いうちから専門性を磨き、その専門性を生かした産業を保護するようにする一方で、大学ではゼネラリストとして、理系・文系の区別無く知識をつけていく必要があると思います。

日本にも高等専門学校(高専)というものがあります(私の経験では高専出身者はその専門性については優秀な人が多く、かつ新卒でも即戦力になります)が、その報酬については大学卒に及ばないという何ともおかしな慣習がありますが、高専をもっと発展させ、報酬も専門職としてゼネラリスト並みに設定すれば、昨今のエンジニア不足にも貢献できるのでは無いでしょうか。

閑話休題、最後に1人当たり売上高の話をもうひとつ。

この写真、電車の3人掛けの席の前に立った時に目の前に飛び込んできた広告なんですが、何とも言えない違和感を感じたので、ちょっと分析してみました。

いや、違和感を感じたのはこの本の題名ではありません(まぁ題名も胡散臭さ満載なんですが、それはそれとして) 。違和感を感じたのは、ここに書かれているこの会社の社員数と売上高です。

多分この著者(この会社の社長)は『自分はこんなに次々と新規事業を成功させた大きな会社の社長だから、うちの会社のやり方を参考しなさい、そうすれば必ずあなたも成功しますよ』的な上から目線というか信仰宗教の勧誘文句のような宣伝文句で、本を売り込もうとしているんでしょう。

しかし、この社員数と売上高から1人当たり売上高を計算すると約750万円。トヨタの10分の1以下、床屋さんと同じくらいです。いやいや、業種によるでしょう?そうです。で、調べてみました。この会社、ネットカフェやフィットネススタジオ、ホットヨガスタジオ、健康食品販売、介護事業と様々な事業を展開していますが、メインはフィットネスクラブのようです。そうです、サービス業ですから製造業の1人当たり売上高とは比べられません。そこで他のフィットネスクラブの数字を調べてみました。

例えば株式会社ルネサンスの場合社員に臨時雇用者数を足したもので売上高を割ると約1千2百万円、同様に東急スポーツクラブオアシスは3千4百万円、セントラルスポーツは1千7百万円、ティップネスは臨時雇用者数を含めた数かは不明なため参考値ながら5千2百万円(コナミスポーツはコナミと合算の決算なので除外しました)と、1人当たり売上高は、1番小さなルネサンスの6割程度です。

1人当たり750万円の売上から光熱費、建物の賃借料、設備の減価償却費、機材のリース代も備品代も支払わなければなりません。いったいどれだけ人件費に回せるのでしょうか。自ずと社員の給与水準がわかってしまいます。恐らく前述の理容師の平均給与かそれ以下でしょう。(ちなみに有報によるルネサンスやセントラルスポーツの平均給与は550万円程度)

給与が全てとは言いませんが、明らかに世間より安い給料で社員を大量に雇用して、

『突然ですが、社員をもっと大切にしてみてください 』

とは、こっちのセリフです(笑)

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応 の続き の続きです|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

『血のバレンタイン』騒動の話の続きですが、これを書いているそばから、東芝の今期の決算が債務超過になることはほぼ確定的で、東証2部降格、あるいは上場廃止の確率が高くなってきたというニュースが流れてきました。まぁ想像通りのストーリーで、個人的には2部降格では済まされないと予測しています。

さて、債務超過に至るまでには兆候があったはずで、それは ”受注損失引当金に始まる負の連鎖” から、固定資産の減損処理を引き起こしたのではないかと説明しました。そして第3の処理、のれん(営業権)の償却へと続くのです。

既に受注損失引当金で10年先までの損失を処理し、おまけに有形固定資産の減損処理までやって、キレイサッパリぜい肉をそぎ落としきったつもりでしたが、残念ながらまだありました。(泣)

過去の有報を詳しく見れば正確な金額は分かるのでしょうが、東芝のバランスシートには、WH社取得の際に計上した ”のれん(営業権)” が計上されていたはずです。

のれんは、簡単に言えば買収会社の帳簿価額(正確には公正価値)と実際に買収時に支払った金額の差額で、無形固定資産に計上されます。まれに、買収金額の方が安い場合もあります(“負ののれん” と言います)が、買収価格には帳簿価額に加え、将来産み出されるであろう収益の見込み額の一部も含めるため、通常は資産として計上されます。ちなみに “のれん” は ”Goodwill” ですが、負ののれんは ”Badwill”と言って区別します(笑) 。Badwillが発生した場合は負債には計上せずに一時の収益として処理します。

世の中、企業買収(M&A)を繰り返して巨大化して行く企業は数多くありますが、東芝も例外では無く、2006年のWH社の買収時には6千数百万円もの大金をつぎ込んだとあります。今回、”WH社に絡む減損処理による損失” とありますので、その多くはこの買収時に計上した ”のれん” が締めているのではないかと思います。

その “のれん”の減損処理ですが、どこまで減損するかは、基本的には将来の事業計画に拠るところが大きくなります。

のれんは、J-GAAPでは20年以内で均等償却とありますが、IFRSではその価値が著しく損なわれた場合のみ、減損処理を行うことになっていますので、今回の受注損失引当金を計上するまではIFRS上では買収当時ののれん金額がマルマル残っていたことになります。

この無形固定資産、” 将来、収益を生み出せない資産” と判断されれば、最悪の場合は100%減損ということもあり得ます。だから管理会計の責任者が将来の事業計画をどう描くかは大変重要でもあり、ある意味会社の将来を左右する話なので重責でもあります。

減損処理をしたからと言ってもキャッシュが減るわけではありませんから、すぐに会社が倒産する事は無いでしょうが、上場廃止となれば資金調達は困難となり、それは会社が衰退の一途を辿ることになることを意味します。

FP&Aとしてこの課題にどう対峙するのか。超難題ですが、腕の見せ所でもあります。簡単に言えば、”将来一定の収益が見込める事業計画案” を作成し、その価値がのれんの価値を上回ることが理論上証明できれば減損を回避できます。監査法人がそれを認めるという条件付きですが。裏を返せば、認められなければ会社を窮地に追い込むことになります。

しかし、監査法人も昨今あちこちで発生した不正会計を見抜けなかった事件で相当叩かれているため、そうそう簡単に ”ハイそうですか” とは言ってくれません。事業計画には理論的な説明とそれを証明できる資料を揃えておかなければ、決して首を縦に振ることはありません。つまり ”絵に描いた餅” を見せるだけでは無く、餅が出来上がるまでの過程を理論立てて説明する必要があるのです。

例えば、昨年まで赤字だった原発関連事業が、いくら受注損失引当金を計上しているとは言え、急に黒字になる計画を、何の根拠も無く立てても『それは現実味が無い計画でしょう』と一蹴されてアウトです。

でもどうでしょう、例えば工期の短い原発の需要が今後見込めるとします。もちろんそれが過去数年間のマーケットのトレンドで証明できるとしましょう。そして、工期が短かくかつ安全対策の済んだプラント開発と設計がほぼ終わっていて、その原価計算とマーケット価格から一定の粗利益が確保できる見込みがある事が証明できれば、少なくとも数年先からの売上げが通常の粗利益率で達成できる見込みを立てられるかもしれません。そうすれば数年先までは現在抱えるバックオーダーでギリギリ凌いだとしても、数年先からは徐々に利益を見込めるシナリオが描ける可能性もあります。そうなれば或いはそれが事業計画として認められるかもしれません。

決して “飛び抜けて明るい将来像” を描いてはダメです。何とかギリギリ実現可能なライン且つ減損を回避できるラインを見極めて計画を立てなければ、後で実績との乖離に苦しむことになります。一度事業計画が承認されれば、あとは実績が計画通り、或いは計画より上回っている限り原則として減損は回避できます。

監査法人、つまり公認会計士は監査のプロですが、事業法人の会計のプロではありません。監査六法や監査手順には詳しくても事業計画作成に関しては素人同然ですから、会社側、つまりFP&Aに主導権があるのです。

誤魔化してまで計画を立てるのは、倫理にもとりますが、ある程度のリーズナブルな可能性を追求した事業計画を立てるぶんには監査法人も否定は出来ないはずです。ですからFP&Aの腕次第では危機を、つまり減損処理を回避できる可能性もあります。ただし、一時的にはという但し書き付きですが。

当然、事業計画は年度別、或いは四半期別に作成することを求めらます。例えば10年先までの計画を立てたとしましょう。監査法人は必ずその事業計画と実績がかけ離れていないかを翌期からトラッキングを開始します。そしてそれが計画通りに進んでいなければ、FP&Aは嘘つき扱い、会社は減損処理を強いられることになります。残念ながら。

しかし、減損を一年先延ばしに出来ただけでもチャンスが生まれる可能性はあります。その1年間にどれだけ復活の道筋を付けられるか。まさに、執行猶予付きの実刑の判決を受けたようなものですから。

東芝は、一昨年の不正会計問題で執行猶予を与えられたにも拘らず、事業再生の道筋を立てられなかったばかりか、さらなる不祥事を暴かれてしまいました。残念ながら復活への道筋は閉ざされ、実刑が言い渡されることでしょう。

– 後書き –
東芝が実際に監査法人とどのようなやり取りをしたかは分かりませんが、数年前に不正会計を行なったいわゆる ”前科者” には相当の厳しい態度で対応したことでしょう。ましてや、お決まりの ”E&Yが監査法人の時に不正会計が発覚、その後はPWCにバトンタッチ” というパターンです。PWCも相当構えて監査に臨んだことでしょう。だから発覚したのか、それともE&Yが見逃していたのか、自らが自白したのかは分かりませんが、会計処理をバカにした会社が会計処理に仕返しされてしまいました。残念です。

会計監査でも税務でもそうですが、彼らが帳簿全てをチェックすることなど到底出来ません。ですから当然、一通りのお決まりのチェックポイントを監査したあとは、その過程で ”ちょっと怪しいな” と思ったポイントに突っ込んできます。

彼らもプロですから、そのあたりにはハナが効きます。そしてその怪しいポイントについては徹底的に資料と説明を求められることになります。財務担当者として、ルーティンポイントで何も問題が起こらないようにすることは当然ですが、”怪しいポイントを見つけ出させ無い” ような対策を取っておくことも需要です。そのためには何をすれば良いか?

それはまた、別のコラムで。

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応 の続き|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

今回の東芝の『血のバレンタイン』騒動は、アメリカの原発関連子会社に絡む減損処理が原因で、東芝の今期の決算が債務超過になってしまう可能性が高いというものです。債務超過になればいずれ上場廃止になるのは必至で、100年以上続いた名門の終焉は日本の経済力にも少なからず影響を与えるでしょう。

債務超過に至るまでには兆候があったはずで、それは ”受注損失引当金に始まる負の連鎖” から引き起こされたのではないかということを前回書きました。

では、最初の兆候である受注損失引当金はどのように発生したのか、そしてそれが決算にどれだけインパクトが与えたのかについて少し説明します。

製造”見積”原価の上昇は、受注損失引当金に影響を与えます。受注時の見積りでは、特別の理由がない限りある程度の粗利益を確保できると想定しているはずで、一般的な製造業であれば、25〜30%が適切なレベルと言われています。

今回の報道によると、311の原発事故の影響で “安全性確保” の為の処置を強いられ、それが原因でコストが上昇したとのことでしたが、一口に安全性の確保と言っても、これは製造原価の見積りに大変な影響を与えます。

どんな製品でも安全性の確保には多かれ少なかれコストを費やします。特に自動車、建設、機械、プラント開発などは、オペレーションを一歩間違えれば死亡事故に繋がる危険性があるため、設計時から専門チームが関わり、例えケアレスミスがあっても事故に繋がらないよう、何重にも対策を講じます。

一方、いくら安全性の確保と言っても青天井に対策を講じてしまえば、コストだけでは無く日常のオペレーションや効率にも影響があるため、どの程度安全性を確保するかは、業界の規格あるいは社内基準によりコントロールされます。

わかりやすい例で言えば、自動車のエンジンをかける時の安全性です。AT車の場合、ただキーを回すだけでエンジンが掛かってしまえば、その途端に車が走り出し事故を起こす危険性があります。しかし、シフトがPのポジションにあり且つブレーキを踏んでいれば、そのリスクも軽減できます。一方、それに加えて運転席に誰かが座っていなければならないとか、ドアーが全部閉まっていなければならないというのはやり過ぎである、という類いのものです。

当然、このようなプロセスにはコストが発生します。上記を例に取れば、ブレーキと変速機とイグニションを結ぶ専用の回路・ソフトウエアの設計や配線だけではなく、機械的な変更も必要になってくるかもしれません。

安全性の確保は通常は開発当初の設計段階から当然想定されているもので、後から容易に付け足しができるものでは無く、仮に無理に設計完了後になってから修正を加えれば、コストも時間も当初から行う場合と比べ、何十倍もかかることになるでしょう。

今回の更なる安全性の確保は、まさにその設計後に起こったのでしょう。詳しくはわかりませんが、隔壁の強度を上げるとか、何重にもするとか、部材を見直すとか、停電時のバックアップ冷却装置の確保やら地盤沈下対策などなど、まぁそう言った類いのものではないかと想像します。

機械モノは大概そうだと思いますが、ひとつ設計を変えれば連鎖的に設計変更が必要になります。例えば、ある部品の強度を上げるために部材の材質を変えたために重量が増え、増えたためにそれを支持する部材の強度も上げる必要が出てきて、支持する部材が変わったから動きが悪くなり、振動が発生するので、振動を防止する部材を入れたら嵩が上がってしまって… などなど、まさに ”風が吹けば〜” 状態になってしまいます。(この場合は儲からないんですが(笑))

このように、”更なる安全性確保” のための後追いの設計変更により、見積り原価が当初と比べて数十%上がってしまってもなんら不思議ではありません。電力会社にも、国にも交渉して損失補てんの要求もしたのでしょうが、風当たりの強い原発に救いの手が少なかったことは想像に難しくありません。

そう、25〜30%の粗利益なんていとも簡単に吹き飛んでしまうのです。IFRSの場合は、受注損失引当金の計算には粗利益だけではなく、SG&Aのコストも考慮しますから更に引当金額は上昇します。

これが、最初の兆候です。受注損失引当金が、ある特定の受注に対して起こってしまった場合は特に大きな問題となることも無いでしょうが、安全性の問題となれば主力製品全体に対して引当金が発生します。また、原発の標準的な工期が何年かはわかりませんが、仮に10年とすると、理論的には10年分のバックオーダーを抱えていることになり、その全てに対して受注損失引当金を適用することになります。つまり10年先までの損失見込みをたった一年の決算で全額を織り込まなければならないのです。

もう、決算はメタメタです。そして更に追い討ちをかけるのがその事業を継続する為に維持している固定資産の減損処理です。この事業を継続するために必要な固定資産は、果たして ”価値のあるものであるのだろうか” という疑問が湧いてきます。つまり資産が資産である為には、将来利益を生み出すものでなければならないのに、将来利益を生む計画が立てられなければ、いっそ資産の帳簿価額を下げてしまおう。というのが固定資産の減損処理の基本的な考えであり、これが第2の兆候となるのです。

これだけでも、下手をすれば会社存続の危機に瀕する ”オン・ザ・エッヂ” 状態なのに、更に追い討ちをかけるように、第3の兆候が来てしまったのです。

それは次のコラムで。

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

東芝の粉飾決算にみる、FP&Aとしての減損処理の関わりと監査法人対応

〔家計簿の複式簿記化の話の続きの前に、ちょっと寄り道してホットな話題を〕

『血のバレンタイン』

2017年2月14日、東芝はアメリカの原発関連子会社に対し7,000万円を超える減損処理を行うことを発表しました。これは今期の決算が約5,000万円の赤字、さらに約2,000万円債務超過となり、当然、このままでは上場廃止の道を辿ることになる事を意味します。(しかし、半導体部門をスピンオフしてそれを回避する予定とのこと)

何年かおきにやって来る大手企業の粉飾決算のスキャンダル。ついに113年の歴史を持ち19万人の連結従業員を抱える東芝が、減損処理という決定打により、名門の歴史を閉じようとしています。

「会計処理を誤ったからといって、電気機器具の製造等という原告(東芝)の主たる事業自体への信用も毀損されているとはいえない」

これは、2015年に同社が歴代3社長と2人のCFOを不正な会計処理を行った罪で訴えた裁判での、かつての社長である西田氏の発言です。

” 会計処理如きで我々が永年培ってきた事業そのものが揺るぐことは無い”

と、胸を張って言いたかったのでしょう。誰かが拍手でもしてくれるとでも思ったのでしょうか。

私には、”アホを通り越して悲しい開き直りの発言” にしか見えません。会計帳簿の重要性に対する認識が上場企業の社長として決定的に欠落しています。こんなやつが19万人の会社のトップだったと思うと、整理ポジションの会社になった会社で働き続ける従業員もうかばれないでしょう。(整理ポジションになるかどうかはわかりませんが)

今回の債務超過は、そもそも東芝が損失処理を先延ばしたが為に生み出したと言っても過言ではありません。これは単に “損失の後出しか先出しか” の問題ではありません。”キズが浅いうちに治療すればいろいろな治療の選択肢があったのに、末期がんと宣告され、終末期医療の道しか残されなかった” ということと同じです。

このFP&Aのコラムでも何度か触れましたが、悪い兆候を見つけたら、FP&Aとして早期にリスクヘッジと回避あるいはオフセットできる財務的な対策を考える事が重要です。膿みを隠し続ければのちに腫れて、大手術が必要になるのは子供の頃から親に耳にタコが出来るほど聞かされてきたことでしょう(笑)

このタコ…いや社長、そればかりかパソコン事業では、”バイセル取引” という、古典的な粉飾決算の手法まで使い、決算を良く見せていました。膿みを隠すだけでは無く、派手な化粧までして自分を良く見せようとしていたんです。 幼稚極まりない。

会計帳簿は、究極を言えば、企業の財務状況をありのままに見せる事を目的にしています。特に上場会社は、ディスクロージャーとも呼ばれることからもわかるように、全てを包み隠さず開示しなければ、そもそも株主の信頼など得られる訳がありません。

裁判でCFOはきっとこう言ったんでしょう。『19万人の従業員を守る為に必要だった』『会計処理は監査法人との解釈の違い』とでも。守りたいなら正直に膿みを出せば良かったし『解釈の違い』などというものを正当な理由として言い訳しているようでは、そもそもCFO失格です。” あなたそれを承認してるでしょ?”

事業に対する志の低い彼ら役員にしてみれば如何に自分の任期中に業績を上げるかということに集中するが常で、それが成功すれば多額の退職金が待ち受けているという、まぁ、官僚の天下り問題と争うほど醜い仕組みになっているからそれも仕方が無いのかもしれません。

さて、前置きが長くなりましたが、FP&Aと今回の事件の関わりです。冒頭で触れた減損処理とその決定に至るまでの監査法人とのやり取りには、通常、財務部門だけでなく管理会計部門もインボルブされます。減損処理では会社の将来の収益性を見極めることが要求されるため、FP&Aの作成するプランがその判断の基準として採用されるからです。

ではそもそも減損処理(減損会計)とはどのようなものなのでしょうか? wikiによると、こう定義されています。

減損会計(げんそんかいけい、impairment accounting)とは、資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額にその価値の下落を反映させる手続きをいう。減損処理ともいう。

とかく企業の決算発表におけるビッグサプライズとして、毎度毎度、定番の原因として使われるこの言葉、なぜ四半期決算ではその兆候がなかったのに、期末決算で突然桁違いの損失が出てしまうのでしょう? それはその決定までの過程に深く関わりがあります。

今回の東芝のニュースをちょっと聞きかじっただけでは正確なことは分かりませんが、おそらくWH社の固定資産とのれんの両方に対して減損処理がされたのでは無いかと想像します。そもそも減損に至ったのは、” 311の原発事故の影響で原発の安全性を高める処置が必要になったから” とあります。

プロジェクトビジネスにおいて、主力製品において、何らかの原因で受注後に見積り製造原価よりも高いコストになることが想定される場合(今回の場合は安全性の確保)、且つそれを価格改定でカバーできない場合(同、電力会社との値上げ交渉が失敗)、多くは “負の連鎖” が始まることに繋がります。この負の連鎖は以下のようにして起こり得ます。

受注損失引当金 → 固定資産の減損処理 → のれんの減損処理 → 債務超過 → ✖️(想像にお任せします)

では、今回の東芝の減損がどのような過程で起きてしまったか(想像ですが)、何故、減損処理は突然やってくるのか。

それは次のコラムで。

家庭のFP&A 〜 家計簿にも複式簿記を その2 〜|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

今回もFP&Aとは少し離れて柔らかい話『家計簿にも複式簿記を』の続きを。

前回、その1では、” 折角手間暇かけるんだからもう少し効果的なものにしましょう” と、従来の単式簿記形式をやめて複式簿記で家計簿をつけてみる提案をしました。

その2ではその具体例を、前回登場した寸劇家族を使い、少し年月を遡り、最初に車を買った結婚当初の6年前にまでタイムスリップし、その後の6年間の毎年の家計簿を単式簿記と複式簿記とで比べてみたいと思います。

新婚当初のこの夫婦、これからの生活の為に、諸費用込みで300万円の車を買いました。頭金は2人の貯金300万円から150万円支出し、残りの150万円はディーラーキャンペーンの無金利ローンを利用して3年で返済することにしました。妻は専業主婦だけど夫の手取り年収は500万円ほどなので無理な金額ではありません。

ではこれを例に、単式簿記と複式簿記での結果を比較してみます。ただし、あらゆる変動要素はここでは一切排除して説明します。

1年目
(単位は万円)
【単式簿記】
結婚当初預金 300
収入 500
生活費 -400
車の頭金 -150
ローンの返済 -50
現金残高 200

年末で当初と比べて100万円も現金が減りました。『ちょっと無理な買い物をしたかな? 』

【複式簿記】
*自家用車の耐用年数(償却期間)を5年と見込みました。

《貸借対照表》
【貸借対照表は、現在の資産や負債の状況を表すものです】

(結婚当初)
現金 300
資本金 300

2人の資産は預金残高の合計、300万円です。これを ”資本” にして、これから ”家族の経営” をしていきます。

(年末)
現金 200
自家用車 240
借入金 100
資本金 300
剰余金 40

・車という資産と、借入金という負債の認識が出来ました。
・今なら車が100万円以上で売れれば、借金を返してもこれ以上現金が減る事はありません。

《損益計算書》
【損益計算書は、期間損益を把握するためのものです。(この例では1年間)】

収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
当期損益 40

・今年は40万円の ”利益” です。
・40万円は未処分利益にして来年以降のリスクに備えてそのままキープすることにします。

早くも一年目で、帳簿を見た感想が違います。単式簿記では、”ちょっとやばいかな” という感想に対して、複式簿記では僅かながら ”利益” が出たという認識です。

加えて複式簿記では資産と負債がそれぞれいくらあるかの認識も出来たので、車の価値と借入金の早期返済の計画も考えることができます。

2年目
【単式簿記】
年初預金 200
収入 500
生活費 -400
ローンの返済 -50
現金残高 250

年末で現金が昨年より50万円増えましたが、2年も経ってるのにまだ当初の金額に戻っていません。
『何やってるんだか』

【複式簿記】
《貸借対照表》
(年末)
現金 250
自家用車 180
借入金 50
資本金 300
剰余金 80

・借金はあと50万円。『繰上げ返済してもいいけど、無金利だから意味ないか』

《損益計算書》
収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
当期損益 40

・今年も40万円の利益です。収入が去年と同じなので当然です。
・40万円は今年も未処分利益のまま置いておきます。

2年目も感想はだいぶ異なります。

単式簿記では全体像が見えないので、この調子でいいのかどうかわかりません。複式簿記では昨年と収入も生活費も同じだったので、損得も同じになりました。当たり前ですが。そして、80万円の将来の収入減や突然の損失に備えることが出来たと認識出来ました。少し安心できます。

3年目
【単式簿記】
年初預金 250
収入 500
生活費 -400
ローンの返済 -50
現金残高 300

年末で現金が昨年より50万円増えて、3年目にしてやっと当初の金額に戻りました。
『長かった。もうしばらく車は買うのはやめよう』

【複式簿記】
《貸借対照表》
(年末)
現金 300
自家用車 120
借入金 0
資本金 300
剰余金 120

『借金が無くなった!』

《損益計算書》
収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
当期損益 40

・今年も40万円の利益です。
・3年間で貯まった120万円は今年も未処分利益のまま置いておきます。

3年目になると、複式簿記では借金完済がはっきりと見えますし、将来の損失に備える剰余金が120万円あるので、これからの収支計画が明るくなると想定できます。
4年目
【単式簿記】
年初預金 300
収入 500
生活費 -400
ローンの返済 0
現金残高 400

年末で現金が当初より100万円増えました。
『でもまだ車を買い替える余裕は無いな』

【複式簿記】
《貸借対照表》
(年末)
現金 400
自家用車 60
借入金 0
資本金 300
剰余金 160

《損益計算書》
収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
当期損益 40

・今年も40万円の利益です。
『4年間で貯まった160万円の剰余金があるから、そろそろ車を買い替える計画を立てようかな』

4目になると、複式簿記では将来の損失に備える剰余金160万円が見えますので、これを使って車を買い替える計画が立てられるようになりました。
5年目
【単式簿記】
年初預金 400
収入 500
生活費 -400
ローンの返済 0
現金残高 500

預金残高が500万円になりました。
『次の車検で車を買い替えようかな?でもまた新婚当初の預金残高には戻りたく無いから、差額は借金しようか』

【複式簿記】
《貸借対照表》
(年末)
現金 500
自家用車 0
借入金 0
資本金 300
剰余金 200

《損益計算書》
収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
当期損益 40

・今年も40万円の利益です。
『剰余金が200万円あるから、半分残して車を買い替えよう』

複式簿記では昨年から考えていた欲しかった新型車を買う計画がスムーズに立てられました。
さて6年目にこの夫婦は、今の車を100万円で下取りして新しい車を300万円で買う事になりました。車は5年間で償却していましたので下取車の帳簿上の価値はゼロ。つまりここでも利益が出たのです。

【単式簿記】
年初預金 500
収入 500
生活費 -400
下取金 100
新しい車代 -300
現金残高 400

【複式簿記】
《貸借対照表》
(年末)
現金 400
自家用車 240
借入金 0
資本金 300
剰余金 340

《損益計算書》
収入の部 500
支出の部
生活費 -400
車の減価償却費 – 60
車の売却益 100
当期損益 140

どうですか? 単式簿記では 『今の車を下取りして新しい車を買ったけど、下取りが良かったから結果として100万円現金が増えた』程度の感想ですが、複式簿記では経緯と結果まで見ることができます。

このように、複式簿記は家計簿の ”みえる化” を実現し、また、それにより家計の現在の経済状況や将来の支出の見通しを立てることにも役立てることができるのです。

もちろん、複式簿記を採用したからと言って現金が増えるわけではありませんが、現実がよく見えるか見えないかでは、帳簿をつけた意味合いが大きく異なります。

期間損益の把握と ”みえる化” が可能になると、本当は何が家計を圧迫しているか、或いはどこを改善したらより現金が増えるのか、将来の支出に備えて、どこにどれだけ支出すれば良いかが見えてくるようになります。

”カイゼン活動は、みえる化から” です。

例えばこの夫婦の場合、今は毎年40万円の利益が出ています。でもこれから子供の教育費が発生する時期にもなりますから、仮に毎年20万円の教育費を見込んだとすると、買い替える車を200万円にすれば、毎年の償却費負担が60万円から40万円になり、毎年40万円の利益をキープする事が出来る、という計算も可能になります。

期間損益の考えが無いと、どれだけ支出をセーブしたら良いのかの指標がわかりません。極端な話、単式簿記だと『これから教育費が掛かるから車なんか買い替えている場合じゃない、とにかく貯金しなきゃ』という結論になるかもしれません。

上記の寸劇夫婦の例は変動要素を一切排除して、ごくごく単純な例でシミュレーションしましたが、実際の家計簿はもっともっと複雑です。収入も生活費も変動するでしょうし、生活費の分類分けも必要です。さらに住宅の購入なんて入ってきたら35年ローンの把握も出てくるかもしれません。学資保険や満期払戻金のある保険金の処理も将来と今の支出の関係を複雑にする要素のひとつです。また、より正確な数字を求める場合は、年末に資産価値の見直し(減損処理)も必要になるでしょう。

それと、今回の例は常に利益が出ていますが、当然これが損失の場合もあります。そんな時も複式簿記なら早めに兆候が見えてきますから、転ばぬ先の杖ともなり得ます。

どうですか? だいぶ複式簿記化に興味が湧いてきたのでは?

さて、冒頭でも言いましたが、簿記に明るくない人に勧めるにはアプリの力が必要です。実際のアプリで、どの様な仕組みを作ればいいんでしょうか?

それは次のコラムで。

家庭のFP&A 〜 家計簿にも複式簿記を その1 〜

今回は少しFP&Aとは離れて柔らかい話『家計簿にも複式簿記を』について、(全くもって)勝手な持論を書き綴りたいと思います。

最近ではフィンテックやスマホアプリの進歩もあり、レシートをスキャンするだけで、あるいはクレジットカードの請求書を自動的に読みとることで家計簿が簡単に作れたり、そればかりでなく、それを元に支出項目別に傾向を分析し、グラフ化したり、連携している銀行の預金を元に将来のプランなんかも提案してくれるなどと、FP&A顔負けの機能を持つアプリなんかも登場し、そのうち会社のFP&A業務もAI化され ”将来消えてしまう仕事” にリストアップされてしまうのではないかと心配になる今日この頃です。(まぁ、このコラムでも書いている通り自動化とはほど遠い力仕事なので、しばらくは無いとは思いますが 笑)

そんな家計簿ですが、原始的なものでもフィンテックを活用した最新のものでも共通しているのは、現金をベースとした『単式簿記』であるという点です。

単式簿記には貸借対照表も損益計算書もありません。あるのは現金を中心にした出納帳のみで、結果として現金がいくら残ったかを記録するというものです。

家計簿はその単式簿記を採用した現金主義方式により、その増減要因をカテゴリー分けし、あるいは過去の推移と比較し、多かったか少なかったかの分析を行い、あるいはそれを次月以降の支出の参考にすることに使われているツールです。一般的には。

例えば電気代を毎月比較して『夏場に多かったのは、きっとエアコンをたくさん使ったせいだわ』とか、『12月に食材費が多かったのはおせち料理の用意のせいだわ』とか『ガソリン代が高かったのは最近の原油の値上がりのせいだわ』などと予算オーバーした理由を考えて ”自分自身を納得させる” とか、夏休みの家族旅行が響いて支出が多かった翌月は、被服費や外食費を抑えるようにコントロールし、これでなんとなく”帳尻があったような気分にさせて貰える” というのも、もっと言えば、 『今月はボーナスが入ったから、贅沢にホテルのレストランで外食でもしましょうかしら』と ”プチハッピーな気分にさせてくれる” のも、家計簿の大事な役割でもあります。

それはそれで、ある程度の効果はあるんでしょう。しかし、いくらフィンテックが進化したからとはいえ、家計簿をつけるのも分析するのも、それなりの時間をかけているし、やっぱり面倒なものです。そうとう暇な方や家計簿を趣味でつけている人を除いては。だからその費用対効果に疑問を感じてしまうのです。つまり、せっかく時間を掛けてつけているんだから、もっと効率的で役に立つ分析をしましょうという提案をしたいんです。

それが、”家計簿の複式簿記化” です。

複式簿記を採用すると、何が見えてくるか、それは ”期間損益” です。家計簿の場合は、月ごとと年ごとの期間損益の把握が可能になります。給料が毎月入ってくるので毎月、それと毎月だけでは季節変動要因が考慮しにくいので、年ごとの分析も加えて行うというのがリーズナブルでしょう。また、現在の資産や負債の状況も見えます。さらに、もう一つ可能にしてくれるのが、単式簿記の帳簿ベースではなかなか難しい ”将来計画” の作成です。

『そりゃ、あんたは経理が専門だから複式簿記とか言ってるけど、簿記を知らない人にとっては、そんなのわからないよ』

と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、心配には及ばず、そんなに難しいことではありません。少し現金から離れて、”損得についての思考”に切り替えればいいんです。いや、現金主義を疎かにしろということではありませんよ。現金残高はもちろんしっかりと把握します。

当然実現にはアプリの力を借りることになるんでしょうが、昨今のフィンテックの技術に比べれば単純なものです。(具体的な仕組みは後述します)

さて、では期間損益が見えると何がいいんでしょうか?

『現金主義なら収支がハッキリとわかるし、それで毎月の損益も見えるでしょ。何より現金がベースだから安心だよ』

果たしてそうでしょうか? 毎月の突飛な支出や収入に一喜一憂したことはありませんか?

例えば、車が古くなって買い替えなければならなくなったり、住宅の固定資産税の請求時期を忘れていたり、逆に忘れていた保険の満期払戻金があったり。

このようなことがあると、当然現金が増減します。現金主義ですから現金が減れば翌月以降の支出を制限するでしょうし、現金が潤えばそれを活用しようと考えると思います。でもこの考え方は、複式簿記的には違和感があるんです。

『あ〜先月は車を買い替えたから大赤字だわ〜、しばらくパパのお小遣い減らしてもらおうかしら』お昼のワイドショーか、テレビショッピングの寸劇でよく見かけるシーンです。パパは当然アンハッピーです。しかし、複式簿記を採用していればこんなことにはなりません。

ではこの寸劇家族を例に、少し年月を遡って最初に車を買った結婚当初の6年前にタイムスリップして、6年間の家計簿の毎年の結果をその感想と共に単式簿記と複式簿記それぞれで比べて見てみたいと思います。

それは、次のコラムで。

fp&aと管理会計と財務会計 〜 管理会計の魔法 その2 〜|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

その1 では標準原価を例に管理会計の要求で財務会計の方針を変更する場合があることを話しましたが、その続きです。

さて、月次決算をするようになると、いかにして期間コスト、つまり ”毎月のコスト” を正確に把握出来るかというところに焦点が当たってきます。これが出来ないと標準原価と実際原価の間に常に大きな差異が発生してしまうばかりでなく、フォーキャストやビジネスプランニングの作成にも影響が出てしまうからです。

例えば、一年に1、2回しか発生しない経費。年次決算では支払いベースかせいぜい期末に引当金を計上すれば事足りますが、月次決算においてはそれでは不十分です。

製造経費では機器の定期点検や校正費用、製造のコンサルティング費用、パテント使用料やソフトウエアのライセンス料など、労務費ではインセンティブボーナスや労働保険料など、販管費では会計監査法人や税理士事務所への報酬や損害保険料などの、”毎月” 発生しないけれど ”毎年” 必ず発生する大きな経費は、請求書ベースでは無く、毎月引当金(或いは前払金)を計上し、”コストを平準化” する仕組みを作る必要があります。

そう、期間コストの平準化の為には平準化になるような会計仕訳を入れなければならないのです。毎月費用が均等になるように引当金を計上したら、実際のコストが確定した時点で差額を調整する。という管理会計目的の伝票が必要になるのです。

それでも、いくら頑張っても、原価差異は必ず発生します。あなたが預言者ではない限り(笑)。

でも短期決算ならまだその差異の修正は可能です。FP&Aとしては、まずは標準原価と実際原価になるべく差が起きないようコントロールする事が第一ですが、それでも発生してしまったものは舵取りを変え、期末までに修正できるように調整しましょう。

舵取りを変えるには今どれだけ ”本来の航路” からずれているかを把握しなければなりません。標準原価と実際原価がどれだけ乖離しているかは、比較的容易に把握する事が出来ます。毎月の原価差異総額が 試算表上に出てくるからです。(勘定科目を製造経費と販管費に分けている場合。そうでない場合はコストセンターレポートや損益計算書に通常は現れます)

その仕組みはこういうことです。製造を行なうと仕掛品が発生します。発生の都度、標準原価として設定した単価を使い【製造原価という箱】から仕掛品という在庫にコストが振替わります。一方でこの箱には実際に発生した製造コストがどんどん入ってきます。入って来たものと出て行ったものを足し引きして残ったものが原価差異になるという仕組みです。そしてその残ったものがプラスかマイナスかで “有利差異” か ”不利差異” かの判断も出来ます。ただし、あくまで総額だけです。どの製品で、どのような要素で差異が出たのかは、じっくり分析しなければわかりません。

特に外資の場合はまずは結果をレポートすることが優先されますので、分析は数値のレポートの後に、特に差異が大きい場合は迅速に行いましょう。また、差異が小さくても特定の製品だけで大きな有利差異が出て、他の多数の不利差異でカバーされている場合もあります(逆も然り)から、油断は禁物です。

差異分析の結果、その原因が引当金の見積り差異であれば、期末までに修正できるように金額を見直してみることも必要でしょうし、それ以外の原因であれば、在庫の金額を予め調整しておくのも手です。(在庫の調整については、次以降のコラムで説明します)

このような予実管理を繰り返すことでフォーキャスト(決算の着地予想)の精度アップも期待できます。FP&Aに求められる大きなタスクのひとつである ”正確なフォーキャストの作成” は、製造業の場合、多くを標準原価の精度に依存していると言っても過言ではありません。

ここで、ソフトウエア開発、建設、機械などの個別原価計算を要するプロジェクト型の原価計算を例に改めて標準原価設定の精度の重要性について触れてみます。

プロジェクト型の原価要素で多くを占めるのは人件費です。この人件費を原価に組み入れるには『賃率』の設定が必要となります。賃率はいわば標準原価のひとつで、ある一定期間の一工数あたりの単価を想定したものです。簡単に言えば時給のようなものですが、時給と言っても働く本人の人件費だけでなく、通常はその部門で発生するコスト全て、例えば事務所の賃料、減価償却費、IT関連コストや管理監督者の間接コストなどをも含む総額を実稼働時間で割返して導きます。

賃率を設定すれば、毎月の原価差異の要素として必ず ”賃率差異” が発生します。しかし差異が出たとしても、よほど大きくない限り期中で賃率を修正することはありません。というのも上述のプロジェクト型のビジネスの場合、受注してから納品するまで短くて数ヶ月、長ければ数年以上かかってしまう場合もあり、途中で賃率を変えてしまうと、ひとつのプロジェクトの中に ”受注時の想定賃率”、”標準賃率” と ”実際の賃率” の3つ(あるいはそれ以上)が存在することになってしまいます。こうなるとターゲットも定まらず、また、分析も困難になってしまい、そもそも何の為に標準原価を設定したのかが分からなくなってしまうからです。

一方で、実際原価からあまりにかけ離れた標準原価を採用し続ければ、比較そのものが無意味になるばかりでなく、毎月のように原価差異と在庫の修正仕訳を切らなければならないという事態にもなりかねません。(この話もまた長くなりそうなので、別の機会にします(笑))

もう一つ、標準原価の想定結果は製品のプライシングにも結びつくため、ビジネスを大きく左右する要素のひとつともなり得ます。

もし標準原価を実際原価よりも高目に設定すれば、当然価格設定も高くなり、結果としてマーケット価格を上回り受注に繋がらない可能性があります。だからと言って低く見積もれば当然価格設定も低くなり、結果として赤字のプロジェクトになる可能性もあります。

例えば、100円で設定した標準原価を元に130円のプライシングをし、受注出来たはいいものの、プロジェクトを進めたら実際原価は150円でした。などということになったら目も当てられません。

また、製品別の差異分析を疎かにすれば、”隠れた赤字製品” を生み出す原因にもなります。特に装置産業で起き得る問題ですが、個別の製品群を見ると粗利益率はそれぞれそれ程悪くないのに、何故か全体では常に原価差異が発生し、利益が上がらない場合があります。これは標準原価の設定を間違えたばかりに、実は薄利の製品を厚利と勘違いしてセールスプロモーションし、一方で実は高利益率の製品をディスコンしてしまうというケースです。実はこれが一番恐いパターンで、原因追求に比較的時間を要し、気が付いた時はtoo lateということもあります。

この様な事態を避けるためにも差異分析は、”どの原価要素で発生しているか” だけでなく、”どの製品で発生しているか” も調べることが重要なのです。

このように、一度設定したらそうそう変えられない標準原価ですが、設定を間違えれば会社存続の危機に瀕することにもなりかねません。ですから、賃率を含む標準原価の設定はFP&Aの重要なタスクのひとつです。どう設定すればよりビジネスを成功に導くか、十分検討しましょう。ここにもFP&Aのバリューがあるのです。

また長くなりそうなので、続きは次のコラムでつぶやくとします。

fp&aと管理会計と財務会計 〜 管理会計の魔法 その1 〜|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

それなりの規模を有している外資系の会社では、財務会計部門とは別に管理会計やFP&Aの組織が独立している場合が(特にヨーロッパ系では)多いのですが、時にその役割分担について議論を要することがあります。

管理会計と財務会計、ザックリ言えば会社の内部向けの会計と社外向けの会計という役割分担になるのですが、そこに ”必ずしもこうあるべき” という決まりはありません。事実多くの部分でオーバーラップしてますから、あまり厳密に分けてしまってもお互いの為になりません。リソースと各スタッフのスキルを考慮して適宜分担を振り分け、協力体制を築く事が大切です。

ただ、管理会計と財務会計を独立させることで、お互いの牽制機能を働かせている面もありますので、そのあたりのさじ加減も管理監督者には求められるところです。

さて、管理会計は基本的には財務会計の結果の上に成り立つものです。財務会計は数値情報などをベースに《事実》を適法に表すもの、管理会計は財務会計のデータを元に事象の分析を行ったり、将来の予測と方向性、改善目標などについて、マネジメントのディシジョンメイクの為の施策を考察し、またそのような機会を継続的に提供し、会社の業績向上の為に財務面から貢献していく事がその主な役割となります。

財務会計の上に成り立っているとはいえ、管理会計には財務会計の方向性を決めていく役割を求められる場合もあります。

代表的なものとしては ”月次決算” です。通常、財務会計では、年次、半期、四半期決算は求められても、月次決算や週次決算を求められることはありません。しかし多くの場合、継続的にビジネスを展開して行く為には財務状況を少なくとも ”月次単位” で把握する必要があります。タイムリーに把握する事で社内の財務に関するタイムリーなディシジョンメイクに貢献できます。

一つ例をあげると、財務会計の世界では、例えば棚卸が確定するまでは売上原価は確定しません。【期首在庫 + 当期仕入高(或いは材料費・労務費・経費) – 期末棚卸高】という、簿記の3級あたりで習ったやつです。そう、これで十分なんです。財務諸表には正しい棚卸高と売上原価が報告されますので財務会計上では何の問題もありません。

しかし、どうでしょう? この方式だと『棚卸』をするまでは損益が確定しません。年に一度しか棚卸をしなければ、損益を把握するのは年に一度になってしまいます。

ビジネスは毎日動いています。”今の損益” が把握できていない状態、言わば ”今お財布にいくら入っているかがわからない状況” で次に何を買うのかの判断は出来ません。

だから財務状況の把握、つまり決算のタイミングは出来るだけ短い単位に行う事が理想的です。(とは言っても日次決算はやり過ぎで、その複雑な仕組みが故にかえって結果が不透明になり、本末顛倒となる可能性が大きいと考えます)

現実的には、月次決算と月中に行う月次予想が最も理想的な締めのタイミングとなるでしょう。

閑話休題。しかし、月次決算の為に毎月棚卸をする(まして製造業では仕掛品の計算もしなければなりません)というのも、なかなか面倒でもあり、現場作業を一時的にストップしなければならず、多くの工数もかかってしまうため、現実的ではありません。そこで管理会計の登場となります。

棚卸を行なわずに売上原価を把握するために、代表的であり最も多く採用されているものが標準原価により棚卸資産を把握する方法です。標準原価は、棚卸資産を個別あるいはグループ分けし、一定の法則で予測した価額でグループ単位の在庫を評価する事で、上記の簿記の公式を使用せず、在庫の払出高だけでその都度売上原価を(やろうと思えば)デイリーでも把握する事が出来てしまうという、魔法のような手段です(笑)。

もっとも、そんな魔法を使ってしまえば、当然見返りは発生するもので、FP&Aで最も厄介な原価差異分析という作業が待ち受けています。つまり、標準原価で想定した価額と実際原価との差異分析です。

原価差異分析は、通常は月次のレポーティングが終わった後にじっくり行います。もしそこで実際原価との間に大きな差異があることが判明した場合には標準原価の見直しをしなければならないかもしれません。(差異分析については別のコラムで述べるとして、ここでは省略します)

そして童話でもアニメでも魔法はいつしか解けると相場は決まっています。棚卸という現実に直面した時にその魔法と現実のギャップが小さいほど優秀な管理会計と言えます。また、魔法を使ったからと言って年次の棚卸作業が避けられる訳でもありませんので、玉手箱をあけたら、”あらびっくり” ということが無いようにしましょう。

しかし、そんな厄介な分析作業を差し引いたとしても、月次決算は有意義なモノで、得られる事はたくさんあります。FP&Aにとって重要なことは、この短期決算の結果をみてどう動くかです。比較となるのは計画値です。計画値との差異分析を元に今後の展開を予測したり、問題があれば早期に解決策を考えていく、ここにFP&Aの大きなバリューがあります。

このように、財務会計で把握したデータを元に管理会計に必要なデータを算出し、その差異分析を定期的に繰り返していく事で管理会計の精度も上がってきます。また、差異分析によって財務会計の計算ミスなどを見つけることもありますので、お互いがチェックする体制にもなっています。

さて、コラムの管理者からなるべく ”短期決戦” ならぬ ”短期決算” でコラムの回数を増やしたいと言われているのですが、書いているうちについつい話が長くなるので、中途半端ながらここで一度区切り、続きは次のコラムでつぶやくとします。(笑)

まずは ”会社” を知ること 〜 カネは重要ではない 〜|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

FP&Aを進めるにあたって最初に取り組まなければならないのは、”会社” を知ることです。

読者はどれだけ自分の属している ”会社” のことを知っていますか?

FP&Aの視点では、会社というクローズした世界での ”モノ” と ”ヒト” が、分析や計画のための重要な基礎データとなります。あえて言うなら、”カネ” はあまり重要では無く、”情報” はモノとヒトを理解すれば自ずと付いてきます。

ファイナンスという、まさに ”お金” の話をしているのに、経営の三要素のひとつである ”カネ” は重要では無い? というのもおかしな話ですが、”会社の内部での経営” は ”カネ” では動いていません。もちろん、間接的には給与や部門予算などの話はありますし、キャシュフローや資金繰りの話も少なからず絡んで来ますが、FP&Aの観点からはあまり重要な項目ではありません。(財務部門に任せましょう)

そう、会社の日常活動は、主としてモノとヒトの二要素で動いてると言っても構わないでしょう。そしてそれらを深く知ることは、会社が今どのように回っているか、また将来どのように成長していくかの分析に役立つことになります。

ここでいう”モノ” は、文字通りバランスシート上の資産、特に会社の提供する製品やサービス(以下、便宜上 ”商品” とします)のことを表します。会社が何をもって生業としているか、その商品にはどんな特徴があるかを知っていなければ、そもそも正しいファイナンシャルプランニングもアナリシスも出来ません。

読者は、例えば以下の “商品についての情報” をどこまで理解していますか?

・メインのカスタマー構成は?
・マーケットの成長率やオポチュニティは?
・プライスレベルは?
・販売通貨は?
・マーケットシェアは?
・マーケットでの強み、弱みは?
・コンペティターは誰?
・プライスや販売量はどんなマーケットに左右される?
・販売・生産に季節変動要員はある?
・技術進歩のレベルは?
・どんな製品バラエティがある?
・どんなパテントを持っている?
・どのような検査や承認を受ける必要がある?またそのハードルはどの程度?
・これまでに掛けた開発費はどのくらい?
・ライフサイクルは?
・平均原価率は?
・原価に占める変動費と固定費の割合は?
・生産のリードタイムは?
・生産の難易度は?
・製品歩留りは?
・安全在庫のレベルは?
・在庫の回転率は?
・返品率は?
・長期滞留在庫は無い?
・原材料調達の難易度は?
・輸入関税率は?
・輸出入許可の難易度は?
・取扱いに資格が必要?
・環境問題、安全性問題、訴訟案件は無い?
・技術データはデータベース化されている?
・ライセンス費用の支払い義務は?
などなど

その他、バランスシート上の資産やオフバランスの資産として、例えば以下のような情報も知っておく必要があるでしょう。

・製品や製法にパテントはある?
・のれん(営業権)の中身は?
・どのような生産設備や研究施設を持っている?
・売掛金の日数は?
・滞留債権や貸倒れは無い?
・投資資産はあるか?
・リスクヘッジのための資産や契約はある?
・土地建物に環境問題のリスクは無い?
・重要なオフバランス取引や契約は無いか?

などなど、あげれば他にもたくさんありますが、概ねこの程度の基礎知識は必要でしょう。

『いやいや、業種や業界によるでしょ』と思われるかもしれません。でも重要性は異なるものの八割がたはどの業種にも当てはまる筈です。例えば、鉄鋼業から、金融業、不動産業、ソフトウェア開発、製薬業、建設業、農業、アパレル、飲食店、芸能プロダクション、何でも良いです。試しに当てはめてみてください。どうでしょう、意外と当てはまりませんか?そして読者の会社にもこれらを当てはめて、自分がどこまで理解しているかを確認してみましょう。何か忘れていたポイントが見えてくるかもしれません。

同様に、会社を知る上で重要なのは、”ヒト” を知ることです。

ここでいうヒトはそれぞれの部門におけるキーパーソンのことです。皮肉にも多く場合、実務におけるキーパーソンは必ずしもその部門の責任者であるとは限りません。また、” キーパーソン = 会社に貢献している人物” であるとも限りません。

わかりやすい例では、技術や開発部門。どんな業種でも、商品を取り扱う上では必ず技術や開発が関わってきます。そしてその品質の維持向上とコストや納期の改善には深い商品知識が必要となり、それが多くの場合、会社を成長に導く大きな要因のひとつとなっています。

これらを一番理解している人物やその方向性を担っている人物を見つけ出し、その人物から商品の特性や技術的な難易点、要改善点、現在取り組んでいる改良や開発について話を聞いてみましょう。

技術、開発部門だけでなく、営業、製造、マーケティング、広報、人事、法務、品質管理、財務などなども異なる視点からアプローチします。すると会社が今後向かっていく方向性が少しずつ見えてくると思います。

『いや、そうは言ってもそんな事を聞く時間は取ってもらえ無いよ』と言われるかもしれません。そう、あなたが新人であれば尚更です。誰もFP&Aの担当者のためにわざわざ多くの時間を割いてくれないでしょう。そんな時は経費予算の作成や進捗管理を口実に部門の責任者に接触してみましょう。

経費予算はどの部門でも必要なもので、部門の責任者であれば少なからず予算の確保と進捗管理には興味がある筈です。これを口実に深い内容を聞き出しましょう。

さて、このプロセスの目的はヒトを知ることだけでなく、モノを知ることでもあります。予算管理でも何でも良いので時間を作ってもらったらひと通りの質問事項を用意して、情報を聞き出します。もちろん相手に有益な情報も用意していくことを忘れてはいけません。

例えば毎月の予算の消化状況をわかりやすくしたもの、昨年度との比較、大きな支出項目をピックアップしたり、どう改善できるかなどなどの”GIVE”を用意していきましょう。その話の中で、『いやそうは言っても、ここはコレコレこういう理由で出来ない』とか、『これは、こういう訳だからもっと予算が欲しい』などという話になったらシメタモノです。もっと掘り下げて事情を聞いてみましょう。その部門の抱える問題点の片鱗が見えてくると思います。そしてその問題点は多くは改善点にも繋がるのです。

それともし、そのディスカッションの課程でしばしば『いや〜その件に関しては “うちの部の誰々さん” に聞いてよ』と言われる場合には、その”誰々さん” がキーパーソン、つまりその部門を実質的に動かしている人物である可能性があります。

上司から【許可】を受けたあなたは、その ”誰々さん” に早速コンタクトして、もっといろいろな事を聞き出しましょう。

時に、 その人物はキーパーソンでその上司は単なる操り人形というケースも多々あります。特に外資系では、”英語力の問題で高いポジションにはつけないが、実務の実力は上司よりも上” というパターンをしばしば見受けます。まぁ英語力も業務の実力のひとつでもありますが、逆に英語力と雄弁さだけで高いポジション登り詰めたヒトも数多くいることも、悲しいかな現実です。そんな時は、上司に詳細を聞いても無駄です。不正確な情報など何の役には立ちません。早々に見切りをつけて、キーパーソンへコンタクトするルートを確保しましょう。

閑話休題、ここでのポイントは各部門のキーパーソンを読者の中で見定めておくことです。そしてそのキーパーソンを動かすには、その上司をうまく使うことを忘れてはいけません。

誤解をしてはいけないのは、そのキーパーソンは必ずしも会社に貢献している人物であるとは限らないという事です。

ありがちなパターンとしては、旧来のやり方やシステムに固執して新しいものを取り入れないキーパーソン。部内の同僚からするとキーパーソンの過去の実績を考えればそれが正しいと信じてしまう。しかし専門知識にのみプライオリティを置き、コストや納期のことはほとんど考えない。上司は依然キーパーソンの専門知識には叶わず、マネジメントからのコスト管理、営業部門からの納期のプレッシャーと戦う…

このようなことがたびたび繰り返され、カイゼン活動は一向に進まず、多くのオポチュニティを逃してきた可能性もあります。

そう、キーパーソンから聞いた話を全て正しいと判断するのではなく、聞いた話を第三者として、あるいはマネジメントの立場に立って解釈し、カイゼン点を見出し、解決への道筋を示すのもFP&Aの役割のひとつです。この点は後々の章で具体的なアプローチについて述べることとします。

このようなプロセスを経て会社の ”モノ” と “ヒト” に関する知識を少しずつ溜めこんでいくにつれ、FP&Aはどんどん有効なものになっていきます。しかし、情報は日々更新します。マーケットや顧客に大きな変化があった時、組織の再編成やキーパーソンの離脱など、根底から考え直さなければならない時も出てくるでしょう。だから常に最新の情報を得られるルートを確保して置くことも大切です。それも ”ヒト” に関わる情報があってこそなのです。

次章以降では、もう少し具体的な例を元に話を展開していこうと思います。

プロローグ|FP&A Manager FP&Aマネージャー専門メディア

FP&A、Financial Planning and Analysis と聞いてどんなイメージをお持ちでしょうか?

直訳すれば、「財務的計画と分析」

何だか上から目線で数値管理だけで実務には役立ちそうも無いし、MBAだかCPAだかの資格を持ったやつが小難しい係数や統計で業績の評価したり、現場を見てもいないくせに勝手に予算や収益計画を決めたり、少しでも計画とズレればうるさいことを言って来そうだし… どうぞお好きに数字遊びでも何でもやってくださいな。という感じでしょうか?

読者が少なからずFP&Aという職種や活動にそんなイメージを持っていれば、あるいは読者がFP&Aの担当者で、多かれ少なかれ “社内で自分がそう思われているのではないか” と感じているとしたら、本書を少しだけ参考にしてFP&Aの活動をもっと現場に身近なもの、そして全ての部門の実務や将来の計画に役立つものに少しずつ変えていって欲しいと思います。そしてそれは会社の業績向上はもちろん、ひいては読者自身の個人業績評価の向上にも必ず貢献するものと確信しているからです。

また、これからFP&Aのキャリア職に就きたいと考えている ”経理実務経験者” の方々や、学校や資格取得の勉強を通して様々な理論を学んだ ”頭デッカチの未経験者” の方々にも、将来、日常業務においてきっと役に立つものになる読み物だと思います。あっ、頭デッカチが悪いとは言っていませんよ。これから身体を鍛えればいいんですから。

正直、意外かもしれませんが、FP&Aは ”知識3割、経験7割” あるいは ”デジタル3割、アナログ7割” 、”思考3割、行動7割” の世界だと私は思っています。

例えば、”ある会社の決算書を見て即座に財務的な問題点と対策をあげなさい” と言われても知識だけでは、せいぜい ”ナニナニ係数によるとナニナニ比率が悪いからナニナニを改善スベシ” までしか出て来ないでしょう。これでは単なる ”役立たずのコンサルタント” です。よく見かけますよね、こういう評論家的な人たち。

改善点を明確にし、協力者を集め、目標達成までのタイムラインと道筋を見せ、達成するまでのサポートを行ない、その成果を明確に財務的指標に表してレポートする。ここまでやって初めてFP&Aとしての存在意義があります。

また、ある程度FP&Aの経験を積んでくると、ややこしい計算など一切しなくても、”どこに財務の歪みが生じているか” を ”アナログ感覚” で決算書から感じ取ることができるようになってきます。”財務的な歪み” は多くの場合、財務の要改善点にも繋がります(時にはその会社の強みになっている事もありますが)。そしてその歪みの詳細を確認するにはどの部門にアプローチすれば良いか、どの順番から調べたら良いか、どんなプロセスに問題があるかの想定までわかるようになってきます。(もちろん、実際の解決のためには現場に入らなければ何もわかりません)

本書ではP&Aの担当者(*)の立場に立ち、このような経験値を少しでも早く、そして確実に習得するための実践的な方法をいくつか提供できればと考えています。

(*)以下、FP&Aの担当者を便宜的にフィナンシャルコントローラーあるいはコントローラーと称します。一般に外資系企業におけるフィナンシャルコントローラーはFP&A業務の他にも多くのロールを課せられますが、文字通りのFP&Aの業務だけではその職務をまっとう出来ないと考え、本書ではあえてそう呼びたいと思います。